焦ってくれた?


「最悪…」

呟いても、誰もそれに答えてくれない。夕暮れの綺麗な夕日に染まったショッピングモールのテラスには、大量発生中のカップル。点在、というか、むしろ、もうこれはひしめきあってるって感じ。なのに、何で私は一人なのでしょーか?あぁ、もう自問自答してる場合じゃない。もう、帰ってしまおう。そうだ、そうしよう。

「悠一のばーか」

そもそも、あんなに人気の出る悠一が悪いんだ。杉田さんがあんなに名前出すから。だから、みんな悠一に興味持っちゃうんじゃん。あーこれじゃあ、ただの子供じみた八つ当たりだよ。視界がぼやけていく。

「彼女の目の前で女の子に囲まれたら、あんな顔しないでしょ、ふつー」

普通の定義なんてわかっちゃいないけど、言葉に出さなくては気持ちが落ち着かない。幸いにも、さっきから続いている独り言は他の人に聞き取られていないようで、変人扱いはされていない。遠巻きにだってされていない。その証拠に隣の手摺を陣取っているカップルの、彼女の方の肘が、さっきから何度もぶつかってくる 。いつもだったら、別段気にしないのに、今日はだめみたいだ。苛々が溜まっていく。……やっぱり帰ろう。建物の中に入らずに、テラスからそのまま道路に下りる。駅に向かうには建物の入り口前を結局は通るのだけど。

「は?」

予想外の声が出た。予想外の出来事だった。予想外にも程度があるでしょ。

「奈々子。どこ行ってたんだよ」
「な、んで、悠一がココにいるの?」
「駅に向かうなら、建物のどこから出たとしてもここは絶対に通る」
「何で、帰るって…」
「こんなとこに一人でいてもつまらないからな。俺だったら帰る」
「だから、って、もし私帰る気がなかったら?」
「その時は携帯だって持ってるんだ。どうにかなるだろ」

私が電話に出なかったらどうするんだろう。そしたら、さっきの女の子たちと…。

「帰るのか帰らないのかどっちにするんだ?」
「帰る、よ。バイバイ」
「それはまだ早い。ほら」

手を差し出されても、困る。迷えば、焦れた悠一が強引に手を繋いでくる。さっきの女の子たちが悠一を追いかけてきたのか、出てくるのが見える。

「悠一!あ、のさ、ファンの子が」
「奈々子がいいんだ」

まだ怒っているんだ、と悠一の手を強く握る。イテと横で小さく声が上がった。

「言っておくが、お前が一人で行くのを見てすぐ追いかけたんだからな」

あっという間に機嫌は治った。



fin


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