気づいたのは、久しぶりに行った成一の部屋で見たことないものを見たから。チェーンに指輪が通されているペンダント。指先に引っ掛けて垂らす。明らかに指輪は女性物。細いシルバーで極シンプルなもの。仮にネックレスの為だけに作られているならシンプルすぎて、ないほうがマシなくらいだ。煙草の匂いが仕事先で染み付いてきたのか知らないけど、キツいと言ったから、成一はシャワーを浴びに行っていた。バスルームから出たのか、ドアを開ける音がして、ペンダントを机の上に戻す。

「なんか食べに行く?」
「ん?うん…」
「…なんか作ろうか?」
「うん…」

視線だけで斜向かいに座った成一の指を見る。あの指にピッタリのサイズのシンプルな指輪を、他の誰かがペンダントとして身につけているのを想像した。寒気が駆け巡るようだ。切り出すならどんな言葉をかけよう。成一の言葉が細切れに聞こえる。

「奈々子?どうかした?」

好きだ、と自分はまだ伝えられるだろうか。唇を噛んで、反対に嫌いと言えばいいのだろうか。思考が分散する。いつ移動したのか、正面の床に直接成一が座っている。そこから伸ばされた手を反射的に払いのけた。動いた腕から、消えてるはずの煙草の匂いがした気がした。目を見開いた成一。眩暈がしそうだ。煙草の匂いなんてするはずがないのに。

「俺がなんかした?触られんのも嫌なぐらい、なんかした?」
「わかんない。全部がわかんないよ」

ゆるゆると頭を振る。激しく振ってしまえば、吐きそうだとも思った。自分の手で頬を包む。大丈夫。まだ涙は流れてない。

「じゃあ何が不安?何が不満?」
「ペンダント…」
「ペンダント?あぁ、谷山くんの?」
「谷山…くん?」
「間違えたっぽい。俺の上着のポケッに入ってた」

それは上手い言い訳?それとも本当?

「煙草は?」
「俺が浮気してるか疑ってる?」

うん、そうだよ、なんて、あっさり言えるはずもない。再び成一が手を伸ばしてきて、今度は払いのけはしなかった。大きな温もりが何度も頬を撫でていく。我慢の限界を超えた涙が溢れた。

「煙草臭かったのは多分シャツが借り物だったから」
「そういえば今日通り雨、」
「収録に居合わせた人が親切にも貸してくれた」

すん、と鼻を鳴らした。苦笑しながら、今度は煙草の匂いのしないシャツが、優しく頬を撫でる。

「俺が浮気できるわけないって。奈々子ちゃん大好きなんだから」

しっかり顔を向き合わせる。

「愛しちゃってますし?」

リップノイズに乗ったバードキス。安心して抱きついた。



fin


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