半確信


よく気の付く人だな、と思う。それを彼をよく知る人に言ったら、ギョッとした顔のまま呆然とされた。…その時私は何かおかしなことを言ったのだろうか。問題の人物は目の前にいる。

「お疲れ。この後は別のなにかあるの?」
「ないですよ」
「また。敬語使わないでって」
「そうでした。…そうだった」

自然と肩を並べて歩きだす。

「お腹減ってる?」
「うん。あーもう8時回ってるんだ」

横に並んでいる距離が近いからなのか、揺れる手が何度かぶつかる。少し離れようかと考えたけど、まぁ、いいや、と考えるのを止めた。

「どっか食べに行く?」
「いいよ。他に誰か誘いましょうか?」
「誘わないでいいですよ」
「…敬語はもう癖みたいなものなんですよ」
「俺は敬語使われないのが癖なんだけど」
「頑張って善処はします」

うっかり敬語に気を取られて聞き流したけど、なんか重要なこと言われなかった?二人でいい?今までこんなこと…なかったよね。

「寺島くん?」
「なに?」
「今日、私の名前呼ばないの、なんで?」

当時に足を止めて立ち止まる。歩幅の違いのせいなのか、寺島くんが少し前に出ていて、表情を伺い知ることができない。

「なんで?」
「…気づいた?」
「確信はないです」

寺島くんはこっちが敬語に戻ってしまったことに、もう正す気はないのか、それとも敬語を使われたことに気づいていないのか。もし後者だとしたら、申し訳ないけれど、いやに冷静な自分がいる。

「なんで私の名前呼ばないんですか?」
「半確信してるならそーゆー聞き方はズルくない?」
「半確信しかできないからこういう聞き方しか出来ないんですよ」

手を伸ばされた。躊躇いなく握り返してみる。

「嵌められた気分なんだけど」

言いながらしゃがみ込んでいくから、今が好機とばかりに、手は繋いだままで正面に回る。赤い耳が見える。

「俺としては飯食った後が良かったんだけど」
「よくタイミング外す子なんですよ」
「……知ってる」

落ち着いたのか、寺島くんは立ち上がる。正面から見つめ合う形になって、さすがにこれは耐えられない。しゃがむまではいかないけれど、思い切り俯く。俯いた私の頭を、寺島くんの手が髪を梳くように撫でていく。あぁ、もう!と目を瞑れば、今度は手が頬に添えられた。

「好きだ、奈々子。付き合ってよ」

もうダメだ。私がしゃがみ込む番だった。



fin


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