甘いご飯


これね、これね、と差し出して、二人で作ろう、オムライス。にっこり笑えば、返される笑顔に私はドキドキ。慣れてるはずなのに、今日もドキドキ。それをナイショでお料理開始。私が具材を切って、あれよこれよ、と幸季の握るフライパンに入れていく。順番順番、順番こ。胡椒少々、早口みたいと幸季が笑って、私は小 さくクシャミを一つ。ご飯も混ぜて炒めて、最後の仕上げにケチャップ入れて。赤く染まった、綺麗に染まった。空と一緒に赤く染まった。

「おいしそう」

幸季が一言呟いて。夕日が?なんて惚けてみせた。そしたらにんやり笑った幸季。私の耳に唇寄せて、奈々子が、なんて言ってくる。名前を呼んで、コラと含めてみせる。

「えー本当の気持ちを言ったまでなのに」
「幸季……」
「うん。おいしそうだよね、オムライス!」
「まだ卵乗っかってないけどね」

微妙なほどに微妙な話の逸らし方。クスリと笑いを溢して卵をボウルに割る。泡だて器で混ぜよう。フワフワ卵にするのにね。混ぜようとしたらその手を幸季に取られた。それならそれなら。お皿を出すわ。

「奈々子ちゃん、ご飯入れてー」
「はーい」

薄く引かれた半熟の黄色い布の中央に、赤く染めたご飯を乗せる。意外に、意外なのかわからない。意外に器用な幸季がそれをくるんでお皿に乗せる。

「卵、ふわふわ?」
「ふわふわもふわふわ。奈々子好みですよ」

あっという間に二つ完成。卵にケチャップで書くのはもちろん。半分のハート。もう半分。もう半分は向かい側。幸季も半分のハートを書いて。お皿を二つ並べる。ほらね、ほらね。一個大きいハートの完成。

「いただきます」
「はい。いただきます」

丁寧に手を合わせる幸季に合わせて、私も手を合わせる。
窓の外。赤い空。それはつかの間だったのか。窓の外。群青に近い紫。あぁ、もう夜になるんだな。一日なんて、あっという間に過ぎていく。ぼんやり、ほんのり外を眺めて。眺めながらオムライスを一口一口と口に運んで。

「奈々子」
「え?」

名前を呼ばれて、正面向けば、口の端をぐいと拭われた。拭った指を幸季が舐める。やっと何をされたのか理解して。顔に熱が集中してく。あぁ、外からなくなった夕日は、こんなところにやってきたのね。

「ぼーっと食べてたら危ないよ?」
「あぶ…ない?」
「…食べられちゃうよ?」
「集中して食べます!」

また、胸がドキドキ、どきどき。本当に、本当に。本当なんだよ。

「幸季、好き」

ごほっ、っと目の前で幸季が咽た。



fin


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