繋ぎましょ


射抜くような視線が怖いと思った。そんなことを思ったのは初めてだった。そんな人が気になって、恋をしたのだと気がついた。二人話している姿をぼんやり見ていたら、保村さんが立ち上がった。

「奈々子ちゃんもどう?」
「おい、ヤスっ!」
「よっちんは黙ってて。ね、奈々子ちゃんもお昼、一緒にどう?」

視線をずらして、吉野さんを見る。視線は窓の外へと向けられている。

「……ご迷惑でなければ、ご一緒させてください」

一緒にお昼を取って、仕事があるのだという保村さんは一足先に駅に向かった。てっきり吉野さんも一緒に行くのだろうと思っていたのに、違ったらしく、気まずい。

「いたー!ちょ、鳥くん!こっちこっち。どこ行くのよ!良かったー。困ってるよっちんに天使が助けに来ました」

いきなり現れた二人組は吉野さんを探していたらしい。吉野さんが岸尾さんと話し出して、私は帰るタイミングをしっかり逃してしまった。

「奈々子ちゃん」
「は、はい。鳥海さん…なんでしょう?」
「浩輔って呼んでよ」
「篠崎!」
「は、はいっ!?」

手を引かれて、話しかけてきた鳥海さんから無理矢理に距離を取らせられた。

「よっちーん。女の子に無理強いはダメっしょ」
「鳥くん相手だと冗談で済まないから」
「そう?」

どうしよう、雰囲気が一気に悪くなったような気がする。それを遮るように岸尾さんが第一関門突破、とわけの分からないことを呟いた。次仕事一緒なんだから行くよ、と岸尾さんが鳥海さんを引っ張って、台風のような二人が、やっぱり台風のように過ぎ去った。

「篠崎。この後仕事あんの?」
「ない、です」
「あっそ」

手を引かれるままに歩き出す。

「スズがうまいケーキ屋見つけたんだけど、行く?」
「わ、私とですか?!」
「嫌ならいい」
「いっ行きます!嫌じゃない…です」

離されかけた手を、自分から繋ぎ直す。相手は一瞬ピクリと反応したけど、離されるわけでなく、逆にしっかり握られた。自分の携帯がメール受信を知らせてくる。開けてみれば差出人は諏訪部さん。珍しい、なんだろう。書かれた言葉は、第二関門突破おめでとう。

「篠崎?なにメール見て黙ってんだよ」
「吉野さん。裕行さん、て呼んでいいですか?」

さっきの岸尾さんも、鈴村さんも保村さんも、諏訪部さんだって応援してくれてる。
自分も勇気を出したくなった。



fin?



オマケ↓






好きになったんだと気づいた。ただそん時にはアッチは知んねーけどビビってて。ヤスに相談ついでに飯食いにって話してた側からこれだ。勝手に誘って、俺が止めようとすれば、

「よっちんは黙ってて。ね、奈々子ちゃんもお昼、一緒にどう?」

今回のヤスは俺のワガママを聞いてくれないらしい。奈々子から視線を外し、窓の外へと向ける。窺うみてぇに俺を見たって可愛いだけで、直視なんてできっかよ。

「俺もヤスも気にしねーし、好きにしたら?」

一緒に昼食って、仕事があるとヤスが言い出した。嘘なの知ってっし。一足先に駅に向かう足を止めない。だからって奈々子といきなり二人にすんのかよ。気まぢぃ。

「いたー!ちょ、鳥くん!こっちこっち。どこ行くのよ!良かったー。困ってるよっちんに天使が助けに来ました」

いきなり現れた二人組は迷惑なことこの上ない。どうせならスズとか広樹さんとか呼べ、ハゲ!

「なんでしょうか?」
「あら他人行儀。いやー俺と鳥くんで二人の距離縮めてあげようと」
「は?」
「ほらほら、さっそく鳥くんに手出されちゃいそうだよー?」
「感謝しねーからな!」

奈々子の手を引いて、話しかけてた鳥くんから無理矢理に距離を取らせた。

「鳥くん相手だと冗談で済まないから」
「そう?」
「つか、ワザとらしすぎんだけど」

俺と鳥くんの様子にソワソワし始めた奈々子の横で、ダイサクが第一関門突破と呟いたのは放置だ放置!次仕事一緒なんだから行くよ、と鳥くんを引っ張っていく。…少しは感謝してやっか。

「篠崎。この後仕事あんの?」
「ない、です」
「あっそ」

手を引いたまま歩き出す。ケーキで相手の気持ちを引っ張って、自分らしくない。

「嫌ならいい。」
「いっ行きます!嫌じゃない…です」
「甘いの好き?」
「好きです。というか得意です!」

なんだそれ、と笑い、自然に手を離そうとした。繋ぎ直されて驚いた。でも離されるわけでなく、逆にしっかり握られた。携帯の着信音。奈々子のらしい。ボタンをいじっているからメールか。彼氏がもういるのか、と相手を訊ねれば、

「吉野さん。裕行さん、て呼んでいいですか?」

メール相手はどうやらアノ中の誰かだ。なら返す言葉はこうだろう。

「俺が奈々子って呼んでいーんならな」



fin


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