好き、好き、


好き。だから言えない。とても大切な気持ちだから、温めて暖めて、あたため過ぎて届くことはないと思う。愛してるとは、言い切れない。それでも、好きというこの気持ちは錯覚や勘違いなんかじゃない。好き。だから好き。そう言葉で気持ちを飲み込んだら、心の中に真っ直ぐ落ちてきた。

「奈々子ちゃーん」
「鳥海さん、煙草吸いました?煙草臭いです」

不機嫌を装って近づいた体を離す。

「ざーんねん。嫌われちゃったー」

さして酔ってもいないだろうに、なんか暑くない?などと言いつつ、他の子にもベタベタと近寄って。さながら花の蜜を集め回ってる蝶みたいだと思う。目の奥がじんわりと熱くなる。あたため過ぎた気持ちが、涙に代わってしまったみたい。突然下を向いて黙り込んだ自分を心配してくれたのか、隣の子が大丈夫?と優しく声を掛けてくれた。慌てて大丈夫だと顔を上げれば、涙が一筋頬を滑ったのが分かった。あたふたとしながらそれを拭くと、反対側の席から短い悲鳴が上がった。視界の端っこで、珍しく慌てて席を移動してる鳥海さんが映る。

「奈々子ちゃん?!」

名前を呼ばれたのに驚いた。さらに視線が合ったのにも驚いた。強いて言えば、慌てて席を移動してくる先が自分の元だということにも驚いた。

「どうしたの?!」
「鳥海さんこそどうしたんですか?なんからしくないですよ?」
「なに泣いてんの?」
「鳥海さん?」
「俺に言えない?」

顔をぐんと近づけられる。周りに人がいるのに、なんて思ったけど、どうやら既に自分たちが蚊帳の外に放り出されているらしい。目の前の人物はなぜなのか、いつになく真剣な顔で。自分はその相手が好き過ぎて泣いてる。この事を十分に理解している第三者がいたら、きっと滑稽に映ってる。

「俺らしくない?そんなの当たり前じゃん?」
「鳥海さん?」
「だってさー、好きな子が泣いてたら、こうならない?」

名前を呼ぼうとして、さっきから名前しか呼んでいないと気付く。でも、それ以外になんて声をかけたらいいのか分からない。

「好きなんだけど。奈々子ちゃん」
「わ、たし?私は…、私、私は…」
「俺のこと、好きじゃ、ない?」

一向に涙は止まってないのに、きっと顔はぐしゃぐしゃなのに、正面から真っ直ぐに鳥海さんを見る。これだけ正面から向き合ったのは初めてかもしれない。

「好き?嫌い?好きに、なってくれない?」
「私は、もっと、ずっと前から、好きで。鳥海さんが、好き」

一言一言を弾き出すようにして喋った。楽しそうに、嬉しそうに笑う顔が正面にあった。



fin


- 239 -

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -