某巨大テーマパーク海


ぎゅっと、腕を回して抱きついた。そのまま胸元に顔を埋めるように抱きついていても、文句を言われない。すっかり馴染んだ匂いが鼻腔をくすぐる。園内で2人っきりになれる場所なんて、そうそうないし、やっぱりある程度の人足はあるけれど。

「なんか、不思議」

とろん、と熱に浮かされたような声が出た。賑やかな園内のはずなのに、人のざわめきが遠く聞こえる。

「そうか?」

抱き合って、より近くなった体から、伝わってくる体温が程よい熱を帯びている。反対に海風が火照っていく躯を冷やそうとしていくみたい。

「そうだよ」
「奈々子、顔上げて」

上げて、と言っておきながら、顎に手をかけて強制的に上げられた。BGMの音が大きくなったような気がした。でも、そんなことは気のせい。それに、2人っきりになれたようで、チラホラと前を通り過ぎて行く人はいる。

「達央?待って、いい加減恥ずかし」
「待てません」
「っ?!」

言葉通り、人の待ったを盛大に無視してキスされる。通り過ぎて行く人の気配は絶えない。

「……達央っ」
「なに?」
「人が…んっ、、んん…」
「見せつけれるだけ見せつける」

達央の喋る言葉が聞こえるようで聞こえない。ほとんど吐息混じりの声。

「奈々子」
「んあっ」

チラリと周りを見れば、ガン見されてる?!

「奈々子、よそ見してんな」
「んん!」

ようやく解放されたはいいけど。見られた。見られたよ。

「いい記念だろ?」
「達央のばか…」
「なんだよ。誕生日にシーでキスなんて夢一杯じゃん」
「確かに嬉しい。けど人目っていうのが、」
「Happy Biruhday,奈々子」

二の句なんて、継げなくなった。



fin


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