質問は一回
「すっごいすっっごい好きな人に告るとします!ねっ、返事を聞く勇気って、ある?」
なにを言ってんだコイツは的な目で見られた。私だって好きでこんなこと聞いてるわけじゃない。恨むぞ、某広樹。
「人の睡眠妨害もほどほどにしとけよ?」
「いや、仕事の最中になに言ってんだよ」
おおっと口が滑った。
「…何言ってるの。の間違いね」
「ずいぶん違ぇのを間違えんなよ」
「いいからいいから。質問に答える!はい!」
「…イヤだ」
そんなことだろうとは思ったけどさぁあー。私も本当に聞きたいわけじゃないしね。実際そんな大事な質問でもないんだけどさ。
「奈々子、お前は?」
「それは狡い」
「お前が言ったら言うって」
「本当?」
「マジマジ」
って過去何回騙されているヤスくんを見てることやら。信じ難いなー。
「いやマジだって」
しょうがない。覚悟決めてみるか。
「私は…」
「私は?」
「聞きたくない」
「あっそ」
え、終わり?!
「ちょ!言うって!」
「あー?キガカワリマシタ」
「ふざけるな」
胸元を掴み上げる。周りで事の流れを半ば楽しんでいらした方々に緊張が走る。その一瞬をついての吉野の痛烈な一撃。
「奈々子、胸見えそうだけど?」
「死んでしまえ」
「無理だわ。奈々子より俺の方が強ぇーし」
引き続いて他の方からの痛烈な一撃。
「それでいて篠崎さんと吉野さん付き合ってないのが不思議ですね」
もう私のヒットポイント略してHPは底をついた…。よりによってこのタイミングかよ!
「あーやっぱまた気が変わったわ。教えてやる」
ぐい、と肩を引き寄せられて、そのまま肩組状態。思わず体は強張る。それを知ってか知らないでか、余計密着してきやがる。他の方々は最早見て見ぬ振りだよ!
「あのな、俺は、」
耳っ声近っ、バカっ!
「返事は聞いとかなきゃ嫌だ」
「そ、そっか。そうなんだ」
イエスと答えられたら告白しろよ。なんてことを言われてたけど、いやいや、仕事の休憩中だし、ここで振られたらただひたすら気まずいだけだし、どうしろと?
なんてことばっかり頭の中がグルグルしていたら、肩を押されて、二人してその場にしゃがみ込む。なにが起こるのかさっぱりもって予測がつかない。
「吉野…?」
「ってわけだから、俺、お前が好きなんだけど返事は?」
固まった私の頬に吉野の唇が触れた。ここがどこだか覚えてる?なんてお決まりの言葉をつい飲み込んだ。
fin
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