とつげきっ


「ここ、かなぁ」

建物の玄関のところから、中をじーっと見てみても、だぁれもいない。今日おやすみだったのかな?んー?

「でも、マモくんあるって言った」

きーくんがくれたケータイを開いて、時間の確認。この時間なら、ここでお仕事してるって言ってたもん。……泣いちゃダメなんだもん。泣かないもん。

「ごめんくださーい」

建物の玄関を押せば、ギギッっていう嫌な音も出ないで、簡単に開いた。ちょっと入ってみても、誰も出てこない。そうっと進んでみる。

「あ、来た。迷わず来れた?」
「マモくん!うんっ、来れたよ!えらい?」
「偉いねー」

えっへん、と腰に手を当ててみた。でも、本当は心臓がバクバクしてて、マモくんに会えたから、ちょっとだけ安心。でも本当にちょっぴりだけ。

「きーくんは?」
「こっちおいで」

お部屋の前まで案内してもらって、抱っこしてもらって、ガラスから中を見る。いたっ!

「マモくん、いた!いたよっ!」

声が聞こえちゃったみたいで、きーくんが驚いた顔で奈々子を見た。中にもう一個部屋があったみたいで、そこから知らない人が出てきた。きーくんと何か話してから、きーくんは部屋から出てきてくれた。

「奈々子!一人なのか?!お母さんかお父さんは?!」
「今日は平日だよ?あのね、奈々子ね、一人で来たの!すごい?偉い?」
「あぁ、すごいし偉いよ」

言いながら、マモくんに抱っこされてたあたしを、今度はきーくんが抱っこしてくれた。もう、泣いていいかな?

「奈々子?!どうした?ちょっと、マモくん!」
「えぇ?!俺はなんにもしてないって!あーほら、次俺の番だし、じゃあね!」
「くっそー逃げたな」

きーくんの首にぎゅーって抱きついて、ゆっくり顔をあげてみた。

「あーあ。奈々子の可愛いお顔が台無し」

そう言いながら、服の袖で目の周りを拭いてくれた。

「あのね、奈々子ね、あのね、きー兄のお仕事みたくてね」
「うん」
「マモくんがね、ここだよーって」
「大体は理解した。あーもう」
「きーくん怒っちゃった?」
「怒っていいのか褒めていいのか迷ってまーす」
「怒っちゃやだぁ!」
「奈々子にじゃないよ。マモくんに。奈々子は頑張って来てくれたんだから怒らないよ」

今度はきーくんがぎゅーってしてくれた。

「奈々子、今日学校は?」
「あのね、水曜日だから、午前授業ってね、午前中だけなの」
「そっか。じゃあもうちょっとで俺も仕事終わるから、一緒に帰ろうな」
「お仕事見てていいの?!」
「そのために来たんだろ?ちゃんといい子にしてるんだぞ?」
「はぁーい!」

やさしいきーくん。泣いちゃったのも、淋しくなっちゃったからだよ、って言ったら、知ってるって!お仕事頑張ってるのも、奈々子のことわかっちゃったのも、きーくんはすごい!だからね。きーくん、大好きっ!



fin


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