一緒に
「きゃー」
アヒル隊長を右手に鷲掴んで、左手でドアを開けたら、丁度体やら頭やらを洗い終わった所だったみたい。可愛い悲鳴を上げられてしまったけど、それに構わず中に入る。手に取った石鹸で、まずは隊長の体を洗ってあげて、浴槽に浸からせてあげる。
「湯あたりしちゃうよ?」
浴槽の中の相手は、肩まで、むしろ顎までしっかり浸かってる。返事がないのは、ちょっと残念だけど、とりあえず自分も体、髪など洗い流す。途中チラチラこっちを見ながら、何か言いたそうにしていたけど、ここまで何も言ってこないのは珍しいから、あえて聞き返すことはしなかった。
「奈々子ちゃん…」
「渉くん…」
バカップルばりに名前を呼び合っておきながら、次の行動はどうかと思う。自分が浴槽に入った瞬間から始まる、水の掛け合い。隊長!間に挟まれた隊長が荒波に揉まれて、不憫なことに!隊長!
「奈々子、ちゃん?」
「うん?」
水をかけていた手を止めて、隊長を救い出す。そのまま、渉くんの足の間に巧いこと入り込んで、距離を詰めてみる。逃げだそうと、立ち上がりかけた渉くんの肩を押さえる。
「奈々子ちゃん…なんで…入ってきちゃった?」
「入って来ちゃったのは隊長もだもん。」
「えぇっ!こ、この状況、隊長いないのと一緒だよ!」
騒ぐ渉くんに触れるだけのキス。
「浴室は響くんだから、大声出さないの」
「…奈々子ちゃんはいいの?」
「大声の種類が違うから」
にーっこり笑顔で反論を切り捨てれば、キスを返された。から、後ろ手で引き寄せて掴んだ隊長を間に挟んでみた。………あ、ちょっと泣きそう。
「渉くん、冗談。冗談だよ」
代わりに、自分からまた軽いキス。
「奈々子ちゃんの意地悪……」
「ごめんね渉くん。泣かないで?」
「泣いて、ないよ」
可愛い。純粋無垢な子犬を苛めてる気がしてきた。
「ごめんね?」
ほっぺにもキス。謝るから、アヒル隊長を両手で握りつぶそうとするのは、止めてあげてください。口にしないで、やんわりと渉くんから隊長を助け出す。
「奈々子ちゃん、あんまりイタズラ過ぎると」
「渉くんからのお仕置きは楽しみだからいいよ?」
あ、顔真っ赤になった。出ようか、と声をかければ、入って来た時と同じように無言。頷くという動作を返してくれたから、まったく同じというわけではないけど。
「言っておくけど、手加減しないからね?奈々子ちゃん」
それにキスを返して。ごめんね、隊長。明日になったら水揚げします!
fin
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