有言実行
今日の目標、と力なく言われて、いったいなんなんだと半強制的に言わされた。他の人に見せない?離さない?無理だ無理だと騒いだのに、まだ日は高いというのに外出叶わず。
「離してっ!」
腕の中でもがいてみる。それでも、後ろから抱きしめてくる腕は離れてくれない。
「も、裕行!」
「だーめ。つか、無理」
「なんで?!」
「なんでも」
さらに抱き込まれる。離さないって言葉通りなんだけど、ちょっと、これは。
「なぁ」
「ひゃあっ!!」
「…は?」
「………ナンデモナイデス」
耳元すぎるんだもん。だから家からはでないから、せめて離してほしいのに。そう願っても、ダメらしく。
「もしかして、」
「…裕行?」
「あーなるほどな」
振り向きたいけど、振り向きたくない。最初の、目標がなにか聞きたいけど、聞きたくないの二の舞?
「耳、弱いんだよなぁ、奈々子」
「んっ、やっ」
ヤバい。これはヤバい。逃げられない。さらに、裕行の手が動きはじめ、たー!そしてそれなら逃げれるんじゃん?とか思っても、腰が抜けてるって……自分どんだけ耳弱いわけ?
「奈々子?」
今にも大笑いをしそうなほどに声を震わせながら、呼びかけられる。こっちは暴れまくる心臓が痛いほどで声が震える。
「奈々子、こんな耳弱かったっけ?」
笑い声を引っ込めて、今度はひたすら不思議そうに聞かれた。日は高くて、天気はよくて、出かけたいのにそれもできず。座らせてくれたはいいけど、後ろから抱きしめたりなんてしてくるから、顔見ることできないし。離してくれたら、おいしいココアだって作ってあげるのに、それも出来ないし!
「裕行のせいでしょ!」
思わず叫んだけど、ちょっと待て。ちょっと待て、自分。
「へぇー…耳弱くなったの、俺のせいって言っちゃうんだ?」
振り返りたくない!向き合ってなくて良かった!
「俺の教育の賜物って?」
今日一番の楽しそうに弾んだ声が聴こえる。幻聴だと思いたい。
「奈々子」
「ひゃう!」
耳元で喋るに加え、耳舐めたよ、この人!おまけに背中を撫でてただけの手が、手がぁ。
「裕行っ」
「んな声出してんなよ」
「裕行が、んっ、手、手ぇっ!」
両手それぞれ、際どい場所を狙って撫でてくるからだ、と言いたいのに、言葉が続かない。
「どうした?奈々子」
「ど、したっ…て」
「んな誘ってるみてぇな声出してんなって」
裕行の立てる目標を、次から絶対に聞かない!これは私の立てる目標!
fin
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