necessity vital
よろしくお願いします、と緊張感マックスで挑んだ初仕事にいたことが縁で、何かと気にかけてもらえるようになった。
「奈々子ちゃん」
「なんでしょう?」
「紀章さんの従姉妹って本当?」
「リーク元は誰ですか?」
4つ年上の宮野さんはお兄ちゃんみたい。こんなことを言えば、じゃあお兄ちゃんって呼んでくれればいい、なんてことになるのは短い付き合いながら手に取るように分かる。
「リーク元?紀章さん本人」
「…本人、ですか」
せっせと突いて空にした皿に、ころまたせっせとサラダのおかわり、新しく注文したなにやらかんやらを手際よく宮野さんが入れてくれる。先輩にやらせるわけには、と最初渋ったのに、今ではすっかり慣れてしまった。
「なにか他にも言ってました?」
「この話したの、実は今日なんだよね」
「あ、そうなんですか」
「で、夜ご飯一緒に食べに行くんだって話して」
人が話してるときは、その人をきちんと見ること。そう教わってきたのだから仕方ない。誰かが直ぐ横に案内されてきたみたい。
「そしたら紀章さんも行くって、言い出したんですよね」
言い終えた宮野さんから勢い良く視線を動かして横を見る。
「きぃ兄?!」
「昨日ぶり。ちゃんと食べてる?マモくんに変なことされてない?あ、奈々子は今日も可愛い」
そうやって、頭を撫でられることは慣れた。言われるセリフも慣れた。でも宮野くんが見てる前では、さすがに恥ずかしいと思うんだけど。
「きぃ兄…あのね、」
「どうした?」
恥ずかしいから止めてと言うのも、なんだか恥ずかしい。呼んでしまったものだし、どうするべきかと迷う。きぃ兄はこっちが喋るのを律儀に待ってる。
「あーあ、紀章さん甘すぎ」
「マモくん、奈々子が話すの邪魔しないでよ」
「ごっごめんね、きぃ兄!なんでもなかったの」
「遠慮しないで言えばいいんだぞ?」
「だいじょぶ」
納得いかないという風に宮野さんを睨んでるきぃ兄の頬を軽く抓る。
「わかった。奈々子、わかったから嫌いになるなよ」
「うわ、なんか俺、かなり貴重シーンに居合わせてる?」
「え?宮野さん、どこがですか?」
どの辺が貴重?と、きぃ兄に聞いてみても、ただ頭を撫でられて誤魔化された。この様子を見ていた宮野さんが、当てられたくないと帰ってしまった。
「奈々子を好きな男は俺だけでいいだろ」
ああもう。紀章兄は私を好き過ぎる。
fin
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