勝ちたい
俺様、なんてことよりも、ふてぶてしいの方が断然似合う。はたして、ふてぶてしいは間違っても褒め言葉じゃないとわかってる。
「悠一。ゆう。ゆーさん」
「…それは全部俺のことか?」
「うん。多分ね」
だって、本人に面と向かって言ったことはないけど、悠一って実はちょっと言いにくい。
「で、俺を呼んで、なにか用か?」
「なんにも」
「奈々子」
「なに?」
「なんでもない」
いじわる?違うな。やられたらやりかえさないと気がすまない?そんな感じ。
「悠。かまってー」
年上だからかなんなのか、ゆーいちさんはいっつも余裕で。こっちはわりかし、愛してもらうのに必死だったり、そんなこともなかったり。
「じゃあこっち来い」
「ゆーいちさんが来てくれればいいのに」
「構って欲しいんだろ?」
「行きまーす」
いつも勝てなくて。勝ってやりたいのに、勝てなくて。卑怯?策士?なんというか、ずるい。
「お呼びでしょうか、ご主人様」
「……奈々子、変態プレイっぽいぞ?」
「それはやだ」
盛大に眉を顰めてくれまして。ため息までついてくださりやがって。こうやって大人な反応を見せられる。
「それもやだ」
「は?どれだよ」
「とにかくやだ」
「なんだよ?」
「………やだ」
「だからなにがだよ」
あ、ちょっと困った顔。でも、それも見たくない。自分がお子様なのか、と思ってしまう。よくされるけど。
「ゆーも焦ってくれればいいのに」
「奈々子相手に焦るタイミングがないだろ」
ここまでは実は最近よくする流れで。いつもならここで私が不貞腐れて悠一が宥めて終わりなんだけど。今日は違う。
「実力行使」
「は?って、おい!」
ベッドに座っていた悠一を押し倒す。そのまま首筋に顔を埋めて、その肌をきつく吸う。
「奈々子!」
片手は肩に添えたまま、もう片方の手でTシャツを捲りあげる。自分からキスを仕掛けて、逃げられてしまわないように。
「奈々子!おい!」
捲りあげて、露になった胸元に唇を落としていく。いつも悠さんがやる手順。覚えてる自分が恥ずかしいような、そうでもないような。
「やめっ、おい!奈々子!」
たぶん、あいされてる、証。
「焦った。へへ、私の勝ち」
へらり、と笑ってみせれば、相手もにやりと笑った。あ、ちょっとヤな予感。
「やり返されるのを期待してるんだろ?そうだよな?」
体勢をひっくり返されながら、達した結論は、悠一はやっぱりふてぶてしいんだ、ということだけだった。
fin
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