嬉しすぎて
メールが来た。呼び出された。時間指定は夜。予定がないから承諾した。それにしても…なにも…8人全員から内容同一メールを送ってこなくてもいいと思う。しかも同タイミングで。悪質なイタズラかと思った。
約束の時間が迫ってきて、待ち合わせ場所に向かう。ポンッと頭に誰かの手が置かれた。手を置いてきた人物が横に並ぶ。
「よ」
「中村さん…頭に手乗せないでって言ってるじゃないですか」
「置きやすい位置に頭があるんだろ」
精一杯背伸びをして歩いてみるけど、中村さんは笑うだけ。そんなことをしながら待ち合わせ場所に。
「二人とも偉い。な、広樹。言った通りだろ」
「二人が普通だと思うんですけどね」
さすが大人組み。10分前とかに来てたんだろうな。ちなみに今はギリギリの3分前。私が諏訪部さんに挨拶すれば、中村さんが高橋さんに挨拶。
時間丁度になって。
「オッス」
「ま、間に合った…奇跡だ」
「んだよ?俺が間に合うっつったから間に合ったんだってーの」
「アータね!こっちは限界まで走らされてんの!」
本当に二人は仲いいな。羨ましいというか、なんか微笑ましい光景?幼馴染の小学生のやり取りみたいな。
「奈々子、なに笑ってるんだ?」
諏訪部さんに聞かれて、今思ったことをうっかり正直に話してしまった。しまった。あああ…吉野さんがすっごい笑顔になった。
「奈々子、覚えてろよ?」
怖い、怖いですって、吉野さん!保村さんは苦笑してるし。
「セーフ?」
「アウト」
ひょっこり現れた鈴村さんの頭を高橋さんが軽く小突く。それでも鈴村さんは、おどけて舌を出して屈託なく笑う。癒される、かも?
「あ、そや。リーダー。鳥ちゃんお店直接行くって」
「了解。後は、ダイサクか」
時間は5分を過ぎてる。一瞬時計を見てぼんやりしたら、その隙を狙われたらしい。
「きゃあ!」
「奈々子ちゃん、隙あり!」
「ききき、岸尾さん…驚かせないでください、って、離れてください!」
背後から飛びつかれて、心の臓が口からあんぐり出かけて危なかった。なかなか離れない岸尾さんを保村さんが離してくれた。その間、他の人たちはノータッチって、酷すぎる。
お店につけば、鳥海さんが先にいた。呑気に挨拶をしてくる鳥海さんに中村さんがツッコめば、こっちに来たほうが近かったから、と呆れることを。
全員が飲み物を注文して、それが届いて。ジッと全員の注目が私に集まる。は、恥ずかしい。リーダーが指揮をとって。
「奈々子ちゃんの誕生日を祝して、」
「「おめでとー!」」
ガチャリがちゃりとグラスをぶつけながら、みんなから改めておめでとうと繰り返される。予想外に、みんな一人一つプレゼントをくれて、なんだろ、目が熱い。涙が出た。これを見て、みんなが苦笑して、いつもよりみんな柔らかい笑顔で。
「奈々子、誕生日おめでとうございます」
「奈々子ちゃん、おめでとう」
「奈々子おめでとう」
「誕生日おめでとう、奈々子ちゃん」
「おめでっとーう、奈々子ちゃんっ!」
「奈々子おめでとー」
「おめでとお、奈々子」
「奈々子、誕生日おめでとう」
あぁ、これだけは、これだけは言わないと。
「諏訪部さん、高橋さん、吉野さん、保村さん、岸尾さん、鳥海さん、鈴村さん、中村さん、ありっ、ありがとう…ございます!」
誕生日を迎えて泣くなんて、初めてだった。
fin
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