慣れない
「だ、からって…ほんっと…無理!」
「で、でもさ…ね?奈々子ちゃん。入っちゃったし…」
「じゃ、あ、今すぐっ出せ!」
「そんな…でも」
伝わってくる相手の体温は、本来なら心地いいはずなのに、熱いぐらいに感じる。ぎゅっと目を瞑れば、目尻から押し出された涙が滲んだ。
「奈々子ちゃん?!な、泣かないで?ね?」
「うー…渉のばかぁー」
「僕のせいではないんだけど…えっと…」
慰めのように絡んだ指。確かに少し安心できるけど、やっぱり不安のほうが大きい。
「まだ、なの?」
「動いていいの?」
「じゃないと、ダメじゃん」
「うん。後少しだから、もうちょっとだけ我慢してね」
ぎゅっと握ってしまった渉の反対の指が、溢れそうな涙を拭っていく。
「……奈々子ちゃん、ごめんね」
「なんで渉が謝るの?」
「なんで、だろうね」
繋いだ手の熱が少し和らいで、心地いい温度になった、ような気がした。
「あと、どれくらい?」
「もっ、ほら」
思わず力を込めすぎたらしく、渉が息を詰めた。
「奈々子ちゃん、不意打ちは、ダメだよ」
「ごめん。でも、どやって、力抜けばいいのか」
「そんなに緊張しないで」
ゆっくり動いているのは止まらない。不確かな中を探り探り。
「あっ!」
思わず声が出た。声につられて渉もハッとする。
「あった?」
「あっ、た。で、出口だぁー!」
嬉しくなって、渉の手を振り切って走る。そのまま出口にゴールイン。
「奈々子ちゃん、おめでとう」
「よかったよー」
やっぱり太陽の光って素晴らしい。憎きオバケ屋敷を振り返る。横では渉が苦笑いしているけど、こっちは本当に必死だったんだ。じんわりと涙が滲んできた。
「こ、わ、かったんだからー」
「あーあ、もう。奈々子ちゃん、大丈夫だから。ね?もう大丈夫」
ゆっくりと頭を撫でられて、心が安心しきってしまって、ボロボロぼろぼろと次から次に涙が出てくる。渉のお腹あたりの服を両手でギュッと握る。
「もう怖くないから、ね?大丈夫だからね」
「も、入るまえ、ヤって言った、のに」
「そ、そんなにダメだって思わなくて」
「渉は全然怖がらないしっ」
「う、ん。あ、で、でもっ、怖かったよ?」
「嘘くさいー」
自分が小さな子のように泣いてしまっているのはわかっているけど、もう暫くは泣き止めそうにはないらしい。だって、困りながら頭を撫でてくれる渉の手が、暖かすぎる。
fin
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