限界値突破
問1。嫉妬するのはどこからですか?
問2。それが不安になるのはどこからですか?
問3。それらがたとえ自業自得でも、絶望しないと、言い切れますか?
答1。今までに付き合った女性の話が出たとき。
答2。その話の節々に自分が含まれているような後ろ向きな考えが湧き出たとき。
答3。ノー。
自己分析ほど寂しいものはないとは思う。それでも仕事が仕事上、ファンを大事にしたいから。それが自分のファンなら当たり前。でも、私は我が儘で。相手のファンも大事にしたいから。それがこんな形になって、今頃になって現れるなんて。付き合っている、なんてどこから漏れるかわからない。トーク会だったり、ラジオだったり、ドラマCDであったり。だから、同業者の人たちにも内緒。
「寂しいよ…」
思わず口に出していた。二人の仕事休みが噛み合わず、なんだかんだで1ヶ月は会ってない。電話はするけど、それだけじゃ不安なんて拭えない。仕事が一緒になっても、二人っきりになんてなれるわけもなく。家が反対方向が災いで、打ち上げの飲み会でも一緒に帰れるわけもなく。誰かが気を使って二人にしてくれるわけもなく。他の女の子の話題でだって楽しそう。
「知らなかったよ」
公にできない恋が、こんなにも、ここまで辛いものだなんて。もうそろそろ限界なのかもしれない。
時間を確認してラジオをつける。デッキの前、床にペタリと座る。
「始まった」
今聞きたい声は電話でなく、ラジオ番組として聞こえてくる。紀章くんは明日が休み。私は今日が休み。ここまで噛み合わないと自嘲すら込み上げてくる。
《僕も今我慢出来ないことありますよ》
《谷山くんも?なに?》
《実は彼女いるんです》
リモコンを手に巻き戻してみる。ってラジオだから巻き戻せないし、しかもこれDVDのだし!
《え?!初耳だけど!我慢出来なかったっていうのは?》
《彼女いる!って言えなかったんですよ》
意味がないとわかりつつ、今度は停止ボタンを押す。
《秘密?もしかしてファンの皆さんへの配慮とか?》
《そうそう。で仕事被っても二人っきりになれなくて》
《我慢できなくなっちゃった?》
《なっちゃいました》
紀章くんとパーソナリティーの人の笑い声だけが流れる。
《というわけで、奈々子。これから色々と、覚悟しろ》
やっぱり限界だったんだ。あぁ、どうしよう。
fin
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