明日両人休息日


普段され慣れていないことをされると、気恥ずかしいというか、なんというか、落ち着かない。なんとかこの状況を打破しようと、声を掛けてはみるものの。

「黙れ。何も言うな。何も聞かない」

そんなことを言われれば、声は出せない。オマケに耳元で「命令」と呟かれてしまえば、その効果は絶対。

「匂いが甘い。なんで奈々子は甘いんだろうな」

ギュッと抱きしめられている腕に力が篭る。痛い、なんてことは全くない。温もりがより近くなって、自分の心臓はひっきりなしに暴れてはいる。

「なんか言えよ」

今の今、黙れと言ってきたくせに。俺様、基、我侭。

「黙れって言ったのは浩史なのに」
「うるさい」
「もう」

浩史の心音が服越し、背中越しにだけれど、伝わってくる。それだけ、またさらに近くなった温もり。でも、今日のそれは温もりと言うには暑すぎる。

「ね、浩史。いい加減ベッドに入って休んでないと」
「別に。俺も明日オフだから問題ない」
「それはラッキーだけど、明日、もっと熱上がってたらどうするの?」
「そんなことはない」

力強く言い切られても。そもそも、なんで浩史は熱があるというのに、なんで、寝室行かないでこの部屋でこうやって、珍しく、後ろから私を抱きしめてるわけ?!普段なら後ろからだとしても、腕引っ張って、人のこと強制転換させて、なにがなんでも正面から抱きついてくるくせに。座ってるから転換させられない、とか?

「浩史」
「なんだよ?」
「寝たら?」
「なんで?」
「なんで、って、熱あるし」
「関係ない」

絶対それ、関係なくはないと思うんだけど。

「ねぇ」
「うるさい」

強引に首を捻らされて。

「んっ!…ん、はっ、んぅ…」
「これでお前も明日風邪引くな」
「し、信じられない!」
「だから、」
「へ?」

今度は少し痛いぐらいに抱きしめられる。耳にかかる吐息も普段の何倍も熱い。

「だから、奈々子」
「浩史?本当、大丈夫?熱、やっぱり上がってきてるんじゃ」
「傍にいろ」

聞き逃さなかった自分を、思う存分、撫でくりまわして褒めたいと思う。よもや浩史からそんな言葉が出てくるなんて。

「風邪で熱あるから、戯言だ」

やっぱり熱が上がってきてるに違いない。さっきかっら水分も取ってないから、声が擦れてる。囁くようなトーンで耳元で言われて。

「奈々子、今日だけの、戯言だ。傍にいろ」

二人で狭いベッドに入りこむまで、後もうちょっと。



fin


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