強がり=我慢です


仕事が終わって、疲れたから迎えに来いと呼び出した。別に疲れたからと言って呼び出す必要もなにもあったもんじゃないけど、それでも荷物持ちは荷物持つらしく迎えに来い、などと言ってみる。だってだって。

「遅い。私を待たせるとはいい度胸をしてる」
「ど、どこかの悪者ですか、あーたは」
「うるさい」

共演者の方々が苦笑するなか家に向かう。自分でも意識していなかったつもりなのに、足早になっていることに気付き、小さく笑う。
あぁ、本当自分はどうして。

「なに笑ってんの?」
「は?頭おかしいんじゃない?」
「え?それは俺が?」
「楽しい会話もないのに誰が笑うよ」
「で…ですよねー」

家まであと少し。もう少し我慢しないと。だって今我慢できなかったら。

「着いたー。奈々子ちゃん、お帰り」

真の家ではないけど、二人で住んでるわけでもないけど。私がいるのに、わざわざ合鍵を使って先に家の中に入った真が、靴を脱ぐと玄関に向き直って、わざわざ両手を広げるから。

「ただいま」

ぽふり、と自分もさっさと靴を脱いで真に凭れるように抱きつく。あったかい。

「あーあ。外でもこんだけ素直ならいいのに」

抱きついて回した腕に少し力を込める。軽い溜め息と同時に浮遊感。女性の平均身長よりはるかに小さい自分が恨めしいような喜ばしいような。

「ま、そんなところも可愛いとか思っちゃってんですけど?」

おどけて言われた言葉も、真の目を上からだけど、じっと覗き込めば冗談ではないらしい。抱きかかえられたままリビングへ。残念ながらソファーはなくて、床のカーペットにクッションが置かれてるだけ。そこに座った真の膝の上に自然に座る形になった。

「奈々子ちゃん、当てよっか?」
「なに?」
「荷物持ちに呼ぶのは、早く逢いたいから、でしょ?」

ビクリ、と肩が揺れる。

「帰り道、笑ったでしょ?」
「そ、それが?」
「自分、真が好き過ぎるなーとか思っちゃった?」

顔に熱が集まっていく。見られたくなくて、離れるよりも逆にしっかりと真に抱きついた。顔が見られないように。そうしたら、真の匂いに包まれた。安心する、とか、今は思ってる場合でもないけど。

「で、その後、ぎこちなく手が揺れてたのはさ」
「うー」
「こーら。耳塞がないでちゃんと聴いてよ」
「真の意地悪…」
「今だけね」

悔しいから首に噛み付いてやる。もちろん甘噛みだけど。

「ったく。手、揺れてたのさ」

喉を噛まれたお返しか、唇に噛み付かれた。これももちろん甘噛みだったけど。

「手繋ぐの我慢したんでしょ?」
「……エスパー?」
「奈々子ちゃんに関しては。毎回の事ですし?」

手を繋いだら、抱きつき離れられなくなると思ったということは絶対内緒にしておこう。バレるまでは。



fin


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