逆転
よく、寝たかも。もぞもぞとベッドの中で動いて、上に掛かっていた布団を剥がす。毛布は自分に巻き付かせたまま。自分でしたこととは言え、器用なものだ、と口角を上げる。うつ伏せになって、ネコがするように体を伸ばす。これで少しは頭が動き始めてくれるだろう。再び仰向けになり体を起こした。ダメだ、まだ上手く頭が働いてない。
体に掛けていた毛布は、腰から下にしか掛かっていない。ぼんやりとしたまま、次はなにをするんだったか考えていた。ガラリと部屋のドアが開いた。
「奈々子、起き……」
ぼんやりとそっちを見れば、かちりと目があった。言葉を変なところで止めた相手は、目があった瞬間に真っ赤に、それはもう真っ赤になった。真っ赤になったついでに、横にスライドしていった。衝突音まで聞こえたからには、背中でも壁に打ちつけたんだろう。
「わたるー?」
ドアは全開になってる。そのスライド式のドアと一緒に、全開にした本人もスライドしていった。
「あああああ、あのね!」
なんだかもう、精一杯力一杯、挙動不審に陥ってる。
「渉?」
ベッドから降りようと足を出したのと、再度渉がこっちを窺ってきたのと、タイミングがいいように重なった。ただでさえ赤いままの顔を、さらに耳まで赤く染め上げて、また再び引っ込んでいく。
「奈々子!奈々子ちゃん!服!服着て!早く!」
流石にもう頭はすっきり起きた。
「昨日の夜に人をこんな状態にさせた本人が何言いますか」
からかいながら、下着とジーンズだけを身につける。
「だって、昨日の夜は昨日の夜で、だって、その…」
2歳上の彼氏は未だなんというか、なんとその。ペタリペタリとフローリングの床を素足で近づく。渉はまだこったを向かない。ドアから覗けば、膝を抱えるようにして座ってる。2つとはいえ、年上なのに、こうも可愛いのは反則な気がする。まだこっちを向かないのを良いことに、真横まで近づいてから、しゃがむ。
「あのね、奈々子。まず起きたら服を…」
逃げようとするから、とりあえず抱きついてみた。
「な、んで服着てないの?!」
「えーちゃんと着てるじゃん。下着とジーンズ」
「それは着てるって言わないんだって!」
肩を掴まれて剥がされた。ふてくされたら、じっと見つめられて告げられた。
「朝っぱらから、我慢、出来なくなっちゃうじゃん」
こっちの心臓は朝から保たなそう。
fin
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