1日1標
「きょーのもくひょー」
なんて、とてつもなくやる気の出ない声で立てられた目標。なんだ、と怪訝な顔で様子を見てみたら、やったら優しそうな笑顔を返された。裕行がそんな顔をする時は、大半が最高潮に愉しいことを思いついた時だと信じてる。いや、疑いようのない事実だし。
「なに?」
警戒しながら聞いてみる。二人の距離もこっちの警戒心分離れてる。某ゲームで演じてらっしゃった、某悪戯キャラですか、と問いただしたくなる。
「なに離れてんだよ」
「だから目標、って…なに?」
「知りたいか?」
生唾を飲み込む、という表現が大いに似合うぐらい、怖い。でも、聞かなかったら賛否取る前に強制的に執行されるし。
「し、りた、くないような、知りたいような、でもないような、複雑な気分です」
「奈々子、素直になっとけ?」
そう言って、裕行が身を乗り出してきたせいで、せっかく開けておいた距離がなくなった。私の逃げ道への希望もなくなった。腹を括るしかないらしい。
「……知りたいです」
相変わらず裕行は表情を崩してない。思わず一歩後退りすれば、背中にひんやりとする壁が当たった。逃げ道よ、永遠にさようなら。今日だけだけど。やっぱり辛うじて出来たその距離も、至極当然とばかりに詰められた。
「教えてやろうか?」
「出来ることなら」
「あ、マジ?」
「いやいや、ここで嘘ついてもどうしようもないでしょうが」
「だよなぁ」
ちょっと横にズレてみる。ズレた側の壁に手をつかれて、それより先に進めない。なら、反対側に行くしかないと、ちょとした度胸試しをしようとしたけど、先回りで手をつかれて、にっちもさっちもいきません。
「なぁ、奈々子」
「なんでしょう、裕行」
あー近い。近い近い、近い。誓いを立てられてるわけではない。知らない間に、片手取られて持ち上げられて、手の甲にキスとかされてるけど、別段なにか誓ってるわけではない。
「あの。なんかすっごい、恥ずかしいんでしけど?」
「知りたいんだろ?きょーのもくひょー」
「そうだけど。それとこれって、」
壁に残っていた裕行の手は、今度は私を抱き寄せる。耳元とか、ガチ無理だから!だからって、目一杯抱き込まれるとかも無理だし!むしろ両方ってなんですか!
「今日の目標。奈々子を他の奴に見せない、離さない」
死にたいぐらい恥ずかしい。
fin
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