決まってる


これならいっそ、腹の黒い人でも相手にしていたほうが良かったかもしれない。

「ですから、小野さん!諦めてください!」
「嫌だって。俺が好きなのは奈々子ちゃんなんだから、どうしようもないじゃん」

「だって僕の方が絶対好きですよ?」
「俺の方が絶対だって」

さっきから、さっきから、

「確かに僕じゃ釣り合わないかもしれないですけど」
「あ、や、俺だって羽多野くん相手じゃダメだと思うんだけど」

さっきから、さっきから、さっきから、

「「でも、奈々子ちゃんを好きな気持ちに嘘はないから」」

うーんと。

「…ハモっちゃいましたね」
「…そうだね」

あーもう我慢の限界!いいですか?!いいですよね?!

「お二人してっ、さっきから…ウジウジうるさーい!!」
「「はい!」」

ほんっと、本人目の前にして、好きだの愛してるなんだの言い争うことが出来るぐらい度胸あるくせに、なんなの?この1歩…や、5歩くらい足りない感じは?これが、相手を迂回するように見せかけ攻撃してるような会話ならまだしも。相手を褒めあってどうする?!間に挟まってる状態の私がむしろ邪魔じゃない?

「えっと、お、怒らせちゃった?」
「ごめん、ね?」

しかも、なんで、この二人は二人して子犬みたいな雰囲気?うるさい、と叱ったこっちが悪いことをした気分になってきた。

「も、いい…です」

収録休憩中、部屋の隅で膝を抱えて座っていた体勢からパタリと横に倒れる。倒れこむ直前に、いったいどんな反射神経をしているのか、羽多野くんの上着が先に床に敷かれた。倒れたら倒れたで、今度は小野さんの上着が掛けられた。これで私が冷えることはない………って!

「ありがとう、ございます」
「「気にしないで」」

だから、なんでさっきから二人してハモってんの?双子?実は双子?年の違う?それは双子って言わないんだい!

「眉寄せて、どうしたの?」

ちょこんと前にしゃがんだ羽多野くんに眉間を押された。あぁ、そんな皺寄せてたのか。羽多野くんと同じ格好をして小野さんも人の顔を覗きこんできた。さらりと頭を撫でられた。

「ごめん。俺らが騒ぎすぎたからだよね」

まったくだ。そして私も休憩中に寝転んで何してるんだか。体調が悪いわけでもないのに。ジッと小野さんを見る。で、一言。

「やっぱり小野さん、ハンサムですよ」
「「え?」」

あ、また二人ハモったし、二人して固まったし。次の一瞬で、小野さんは顔を赤くした。羽多野くんは、ちょっと、泣きそう。

「な、なんか、女の子にはあんまり言われないから、ふ、不意打ちはダメだって」

立ち上がると他の出演者さんの方に行ってしまった。上着、返し損ねた。

「羽多野くん?」
「奈々子ちゃんは、やっぱり小野さんのほうがいい?」
「そうだよ、って言ったら?」
「泣く、と思う」
「言わないよ。羽多野くん泣かせたくないもん」

え、とまた羽多野くんが固まる。起き上がって、下敷きにしてしまっていた上着を押し付けるようにして返す。その瞬間に近くなった距離。

「羽多野くんが好きです」

呟いて、立ち上がる。小野さんに上着返しに行こう。一歩足を出したら聞こえた。

「本気にしちゃうからね」

チラリと振り向いて、やっぱり小野さんに向かって歩きなおす。

本気にしてくれないと困りますから。

心の中で呟いた。



fin


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