恋って


なんでも知ってる顔して笑うのが嫌い。そう面と向かって言ったら、これも駆け引きだと、また笑う。

「嫌い」
「そう?」
「嫌い」
「そっか」

駆け引き、なんて大人らしいことはできなくて、かと言って、全てを素直に言えるほど子供っぽくもなれなくて。

「でも、俺は奈々子が好きだからさ、俺まで嫌いにはならないでよ」

そうやって、上手いこと二つを使い分けて、勝ったように笑う。悔しくはないけど、腹が立つ。

「嫌い」
「さっきからそればっかりになってるよ?」
「浩輔が嫌い」

単語を増やしてみた。空気が震えた気がした。

「それで?」
「駆け引きも嫌い」
「で?」
「素直になんてなりたくない」
「なんで?」
「子供じゃないもん」
「そっか」

向かい合って座ってた浩輔が隣に移動してきた。自然に肩に回された腕が、今までの恋愛経験を表したみたいで嫌。叩き落すなんてことはしないけど、身じろぎして拒否反応を示してみせたら、あっさりっと退いた。

「どうしろって?」
「わかんない」
「わかんない?」

恋ってどうしてこんなに難しいんですか?ただ好きなだけじゃ、成り立たなくて。好きなだけじゃダメで、どうしたらいいんだと足掻いてるところに、駆け引きだとか、難しい小細工を仕掛けられても。どうしたらいいのかなんてわからない。こんなのは誰も教えてくれなくて。

「奈々子、顔上げてこっち見て」

言われた通りにしたら、おりこうさん、という呟きと一緒にキスがきた。しばらく続くキスに、ぼんやりしてくる思考。怒っていた気持ちも緩くなっていって。

「俺にとっちゃ、ずいぶん素直だと思うけど?」
「え?」
「もっとキスしていい?って言ったの」
「そんなの聞かな」

とろとろに溶けてく。簡単に流される。

「駆け引きなんて出来なくてもいいんじゃない?相手俺なんだし?」
「浩輔だから?」
「そ。子供じゃない方が嬉しいし」
「嬉しいの?素直じゃないのが?」
「ま、違う意味でだけど。流石に子供にこんなことはできないっしょ」

こんなことの意味がわからない。首を傾げたら、またキスされた。

「奈々子は恋愛下手でいいんだよ」
「下手言うな」

キスが止まる気配がない。

「俺が全部、教えてやるから」
「全部?」
「そうぞお楽しみに、お嬢様」

流される。駆け引きでもない、ただのキスに。流されていく。



fin


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