午前2時コンビニに


夜に家から5分のコンビニに呼び出された。自転車なら3分。なんだか微妙な距離だな、おい。なんて愚痴を言っても、まぁ、現在宅を選んだのは私…じゃ、ないし!

『僕の家からも近いしさ』

なんて、いいように言いくるめられた記憶がある。同じ値段で、コンビニの横っていう物件もあったのに。そっちのほうが女の一人暮らしとしては安全じゃないのか?なんて思うけど、実際すでに後の祭りだし。しょうがない。

「いた」
「奈々子。こんばんは」
「ん。こんばんは」

こんばんは、なんて妙に他人行儀な挨拶は嫌い。久しぶり、っていう言葉も嫌い。だって相手も自分も生きてる。生きてるんだから、久しぶりって、嫌い。おはようは、好き。起きて、相手に認識されてる、相手を認識してるんだって、確認できるから。
それでも『こんばんは』なんて挨拶をするのは、幸季が先に言うから。ただ、それだけ。

「あれ?僕が目の前にいるっていうのに、なに違うこと考えてるの?」
「違うこと、なんて考えてない。幸季のことだから、考えてたの」

付き合ってわかったことのうちの一つ。幸季は独占欲が強い、と思ってる。

「そっか。ふーん…僕の、なにを、考えてたの?」
「挨拶、しっかりするよねってこと」
「それは基本じゃない?」
「そっか」
「どうしたの?夜中になんて呼び出したから眠い?」
「そんなことはないけど」

ふーん、とまた呟いてから手を繋いでくる。繋がれた手があったかかったから、大人しく繋がれたままにしておいた。手を引かれて、コンビニの角を曲がる。このまま1本道で私は家に帰れる。

「じゃ、帰ろっか」
「………え?」
「ん?どうかした?」
「帰るって、私は私の家にこの道で帰れるけど、幸季は、」
「奈々子ちゃん?誰が、今日はこれでバイバイって言った?」

笑顔を見て、見ただけで悟った。絶対、この方、よろしくないことを考えてくださってる!

「幸季…さん。明日もお仕事があるのでは?」
「そんなの、僕男の子だもん。大丈夫だよ」
「そそそそそ、それは明らかに私危なくないですか?」

ええ、女、にょ子ですし。おっかなびっくりと、幸季の笑顔を見ていたら、笑顔だった表情が、さらに笑みを増して。背筋を悪寒が猛スピードで駆け抜けていく。

「僕といるのに、僕以外のこと考えた罰だと思えばいいんだよ」
「そう思ったが最後じゃない!」

あー挨拶について深く脳内講義なんてしなければよかった。



fin


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