あれ?


あぁ、なんて言ったらいいんだろう、この気持ち。人の手を握りしめて、心弾ませている相手の顔をジッと見てみる。

「奈々子、そんなに見つめられると、俺にも恥ずかしいという気持ちがまだあってだな」
「は?」
「率直に言えば、そんなに俺に見惚れるなということなんだが」

今すぐにでも手を振りほどきたい。そんな衝動に駆られた。でも…。ブン!強く振ってみても、離れっない!

「ど、どうした?!」
「どうしたも、こうしたも、今、今すぐ、手をっ離せー!!」
「いや、俺に見惚れてたのがバレたぐらいで、そこまで照れなくてもいいだろ」

ピンときた。そうか、そうだったんだ。この場合、見つめて正解だったのか。握り締められてる手を、逆に精一杯の力を込めて握り締める。

「苛々してるから」
「は?な、なんでだ?」
「智和が、智和がっ…」

言葉にならずに下を向いて、足を止める。どうしたっ、と智和も覗き込もうとしてきたから、タイミングを見計らって。

「?!がっ!」

顔を上げたら、ちょうど智和の顎に私の頭がクリーンヒットした。さすが、奈々子。

「なっなにを、というか…なんのいじめだ?」
「あ、私Sじゃないから」
「これのどこが、それを認めさせるんだっ」

ちょっとやりすぎたかな?でも、ここで甘やかしたらダメなんだよね!

「とりあえず、さっきの智和が、の続きはなんだったんだ?」

軽い溜め息で大人な対応。智和にそんな対応されるとは。なんか屈辱。

「奈々子?続きはなんだったんだ?」
「智和が、キモくて」
「………俺はお前の彼氏でいいんだよな?」

あ、もっともな返答きた。間を取ってみる。

「……………」
「………不安になるだろ!」
「彼氏デアッテルヨ」
「嘘くさいぞ!」

こうなったら仕方ない。

「人様の前でデレデレしてるな、ご機嫌な態度を取るな、ウキウキしてるな、キョロキョロしてるな、余所見してるな!」

一気に言ってから、ん?と首を傾げる。あれ?なんか私、いらないこと言わなかった?智和は智和で、ポカンとしてるし。何、言った?

「奈々子、それは、」
「うん?」
「無意識で言ってるのか?」
「う、うん」

さっきの仕返しとばかりに、ジッと見られて、なんだか居心地が悪いような、でも、なんというか、えっと、複雑な気分なんだけど。

「奈々子、それは、つまり、」

つまり?つまり、なにっ?!

「つまり、俺を独り占めしておきたいということだろう?」

人様の前で。ご機嫌な態度…ウキウキ…キョロキョロ…余所見…禁止…それは、つまり、


「私だけに、しとけって、こ…と、で、」

言って、自覚して、一気に顔が熱くなって、耐え切れず顔を逸らした。

「奈々子はこんな街中で大胆だな」
「智和の大馬鹿。も、ほんと、自分死ねばいいのに」
「あ、それは困るぞ。彼氏であっているらしいしな」

ほんと、今日の自分の失言をどうしてくれよう。



fin


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