浮き上がる単語


次はいつ、と約束がないと怖いよ。

次の約束の日、仕事が入った。また連絡する。また、って…いつですか?

私のタイミングが悪すぎるのか、いつ電話を掛けても留守録で。メールを送れば返信は最低半日後。ここまでタイミングが悪いのは一種の運だ。不運という。見かねた順一さんが、俺からこまめに連絡いれるから。と言ってくれて。

その糸が切れたら、私たちはどうなりますか?
この恋は、どうなりますか?

ただでさえ、遠距離の恋。1ヶ月に一度。二度会えたら夢のようだと舞い上がって。携帯の電源を切る。

「糸、切れても、いいのかもしれない」

携帯はうんともすんとも言わない。
約束をしていたはずだった休みを過ぎて、次の休みの日。携帯は電源を切って約3週間。1日に一回は友達や大学からの連絡があるといけないから、チェックだけはしてるけど。
朝起きて電源を入れる。途端、騒ぎ出す携帯。ディスプレイの名前に、心臓が止まるかと思った。つい電源を押して電源を切る。

「なんで?」

掛かってきても不思議はない。毎日着信の履歴のみならず、留守録まで残っているんだから。それでも、なんで、と言わずにはいられなくて。恐る恐るもう一度電源をつける。今度は鳴らない。それに安堵してるのか、不安を煽られているのか。震える手で強く携帯を握りしめる。どうしよう、どうしたい、どうしたら。
玄関で鍵の開く音がした気がした。

「もう、わかんない。グシャグシャだよ」
「ああ」
「好きなのに。手を離したくないのに」
「ああ」

ベッドの上で身を縮ませて膝を抱えて。ぐすり、と鼻を鳴らす。

「泣いていいさ」

怒らないはずがないのに、許してくれるはずがないのに、柔らかい声に許されてしまう。

「深夜から車飛ばして正解だったな」
「仕事は?」
「こんな時にまで俺の心配するなよ、奈々子」

順一さんの手が暖かいのか冷たいのかなんてわからないけど、頭を撫でてくれる手はどこまでも優しい。

「ほら、奈々子。顔上げなさい」

諭されて、ゆっくりて顔をあげる。頭を撫でていた手が頬に落ちてくる。

「悪い。不安にさせたな」
「順一さんのばかぁ」
「だから、悪い大人を離すなよ」

涙を溢れさせないように、グッと力を込めて視線を合わせる。

「それに、遠距離じゃなくなるまであと少しだろ?」

卒業まであと少し。つまりそれって───この人はどれだけ私を泣かしてくれるんだろう。



fin


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