負けない


めんどくさがりのくせに、意外に世話好きで、意外に心配性だって知った。

「っくしゅ」

堪えきれず、ぶるりと身震いした後にくしゃみをした。暖房のついてる部屋なのに、自分は寒いのか?そんなわけないと思うんだけどな。向かい合わせに座って、台本を読んでいた浩輔が、黙ったまま動いた。

エアコンのリモコンを手に取り、なにやら操作。机の上に戻ってきたものを覗き込めば、どうやら設定温度を上げたらしい。寝室側に行って戻ってきたかと思えば、がっつりとあったかい毛布を投げつけられた。モフモフとしながらそれにくるまる。浩輔は今度はキッチンに立ってなにやらしてる。少しして目の前に置かれたコップの中には、ホットミルク。飲んでみれば、ほんのり甘かった。そこでようやく浩輔が座った。──私を後ろから抱き込むように。

「こーすけ?」
「寝てていーぜ?イタズラは我慢してるからさー」

言われて、今し方まで自分が寝ていたのを思い出した。自分鈍すぎる。寝ていたら体温が下がったらしくて寒かったんだ。それにしても……

「私あっためられ過ぎじゃない?」
「えーそう?」
「そんな気がする」
「気のせいじゃない?」

浩輔は言いながら、コテンと肩に額をスリ寄せてくる。

「台本読んでたんじゃないの?いいの?」
「奈々子が寝たら読む」
「毛布も暖房もホットミルクもあるし、いいよ?」
「嫌だ」

思った疑問を投げかける。

「浩輔って、実は世話好き?心配性?」
「奈々子に対してだけ」

反射的に息を止めてしまった。

「ん?奈々子、どうかした?」
「わかってて、言った?」
「まぁ」

後ろにいるくせに、笑ってるっていうのが、肩に押しつけられた額とか、回された腕とかでよくわかる。額が乗っている方の肩を後ろに引いて、さらにそっちを向く。

「奈々子?」

笑いながら浩輔も視線を合わせてきた。その余裕が悔しくて、だから不意打ち。頬にキス。続けて、唇にキス。

「イタズラ我慢できなくなるけど?」

瞬間に顔を赤くした浩輔にざまーみろ、としてやったりな気持ちになる。吐かれた言葉には、そのまま後ろに体重を預けて、目を閉じて言ってやる。

「おやすみ」

本当に眠かったみたい。意識は直ぐに薄れていって。あーもう、という返事がギリギリ聞こえた。
今日は私が1歩勝ち。



fin


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