多過禁止
テコテコ。テコテコ。
クスクス。クスクス。
テコテコ。ギュッ。
「どうしたの、奈々子。甘えちゃって」
「なにが?」
「いや、なにがじゃなくて」
いまさらに自分の行動が恥ずかしくなって、照れ隠しに相手の目に両手を当てて視界を塞いだ。座ってる相手の足の間に、向かい合うようにして座ったから簡単。飲み物を取りに立ったりする真の後ろをついて歩いて、歩いては笑われているのには知らん振り。やっと腰を下ろした真にしがみ付くようにして。
「今日は甘える気分?」
「いつも甘えてるし」
「そこそうやって胸張るとこじゃなくない?」
「うるさい。いーの!真は黙って甘やかしてる!」
「何様だ、あんた!」
「………王道に、俺様?」
「………王道っぷりに、乾杯」
バカなやり取りをしてから、ようやく手を離した。
「んで?どしたの?」
「まだ続けるの?」
「やーだってあんな可愛いストーキングされたら気になるっしょ」
頬を手で押して、半強制的に横を向かせる。
「奈々子?結構、地味に痛いんですけど?」
「こっち向いたら、その命、ないと思え」
「そこまで言うか!」
無言。無言、無言、無言。私は石、岩、岩石。むしろモアイ。喋るもんか。
「奈々子?奈々子ちゃん?」
真も無言になった。なにこの我慢勝負。と思いきや、無言のまま、真が立ち上がるから、慌てて後ろを付いていく。
「奈々子」
お?
「ちょっちコンビニまで行ってくるから留守番頼むわ」
「やだ!」
「即答しちゃうんだ!…じゃあ、」
「甘えるのに理由はない!」
「勿体ぶってたのはなんだったんだよ」
でも、ま、なんかあった訳じゃないならいいや、と頭を一撫でされて、二人揃って外に出る。
テコテコ。テコテコ。
無言。無言。
テコテコ。ギュッ。
「どーぞどーぞ、お好きなように」
真の腕を抱え込むようにして歩く。真がいつも以上に近くて、いつも以上に自分の心臓が飛び跳ねてるような気がする。いまさら付き合い初めなわけでもないくせに。それなのに、なんだか苦しいぐらいで。コンビニまで、そんなに距離があるわけじゃないのに長く感じるのは、真がゆっくり歩いてくれてるからか、なんだかそれ以外にもある気がしてしまう。
「甘いの、たまにでいいや」
ポツリと呟いたら、クスクスと、笑われた。
fin
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