年上あなた


呼びかけると機嫌が悪い。理由を聞いても、別にとはぐらかされる。お手上げです。

「神谷さん、コーヒーと紅茶、どっちがいいですか?」
「奈々子が飲む方でいい」

一週間振りに予定が合って、でも外出をしたくない、という神谷さんの家にお邪魔した。既に勝手知ったる我が家のようで、二人分の紅茶を淹れる。

「どうぞーって、なに食べてるんですか?」

マグカップを両手にテーブルの方に戻れば、神谷さんは何かを食べてる。カップをテーブルに置けば、遠慮なく破られた包装紙を渡された。

「リッチストロベリー、イチゴ果実77%使用…って、これ!」
「お前好きだよな」
「だってだって、チョコですよ?チョコなのにイチゴなんですよ?というかイチゴばんざい!」
「知ってるから落ち着け。うるさい」

ぐっと口を閉じる。そして二口目を食べる神谷さんを凝視。

「なんだよ、奈々子」
「…少しください」
「は?なにを?」

ま、負けない!イチゴの為に負けられない。

「そのチョコ、少し下さい」

手招きされ、膝立ちで神谷さんの横までイソイソと移動する。パキリと割られたイチゴチョコの欠片が口に運ばれてきて、素直に口を開けた、ら。その欠片はUターンして神谷さんの口の中に。

「それは酷くないですか?神谷さ」

口を塞がれた。甘い、なのに酸味があって。それなのにやっぱり甘くて。

「ふっ、んん…」

唇が離れて、パキンという音がしてすぐにまた塞がれる。今度は欠片が口の中に入ってきて。かと思えば、相手の舌が私の舌と同時に溶かしていく。

「はっ、ん…んふぁ…も、神谷さんっ」
「また。奈々子、お前いい加減にしろ」

解放されて、浅く呼吸を繰り返す。いい加減にしてもらいたかったのはコッチなのに。神谷さんを見れば、普段呼びかけた時に見せる不機嫌な顔で。

「神谷さん?」
「だからいい加減にしろと言ってるんだよ」
「なにをですか?」

あれ?なんか、神谷さん、耳赤い?

「神谷さん?」
「だから!それ止めろって言ってるんだよ!」

言われて、なんで今まで呼びかけた時に不機嫌な顔をするのか、ようやく納得がいった。

「奈々子?なに笑ってるんだよ」
「浩史さん」
「…遅いんだよ」

浩史さんの手からイチゴチョコの欠片を抜き取って、口に加える。

「浩史さん。これで許してくださいよ」

今度は自分から口づける。

「馬鹿だろ」

知ってる。それはあなたの照れ隠し。



fin


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