交差して考査
小さいながらも2DKのマンション。今時のにしては珍しく、片部屋は和室。片部屋は洋室。二人でお昼ご飯を食べて、食べ終わったお皿を洗ってる間から浩史の姿を見ていない。右手でドアを開ければ洋室。左手でドアをスライドさせれば和室。両部屋の間に立って悩む、けど。どうせ毎回のことだ。左手を動かす。
「いるし。しかも寝てるし」
起きる?起きちゃう?と思いつつ、傍らに膝を落として顔を覗き見る。触ったら起きちゃうかな?怒られるかな?ビクつきながら手を伸ばす。頬に触れる。起きない。怒られない。髪先を摘んで見る。もう少し。一度だけ。ゆっくりと梳くように触る。
「起きないの、珍しいよね」
太陽がいい具合に部屋の中を温めていて、まだまだ新しいと言える畳はいい匂いをさせてる。浩史の横に、同じように寝転ぶ。あったかい。
「浩史が、浩史さんが好きです」
起きてる時には言わせてくれないことを言ってみる。自分が自分で恥ずかしくなった。じっと顔を見ていたら、キスしたくなって。触れるだけのキスをした。自分も眠くなってきて、目を閉じた。
「バカが」
完全に奈々子が寝入ったのを確認してから起き上がる。さっきされたように奈々子の髪を梳く。俺のなんかより触り心地がいいだろ。頬だって、柔らかいし。ついでに唇も触る。
「人の寝込みを襲うな」
言っても相手は寝ているのだから聞いていないことぐらいわかってる。それでも口に出すのは、さっき奈々子が一人言っていたのと同じ気持ちなんだとは思う。
「なぁ。俺だって好きだし」
それでも口に出さない方が本当の気持ちっぽい気がしてる。だから奈々子にも口にだしてほしくなくて。さて、と。そろそろ一人で考えてるのも飽きたな。
「奈々子起きろ」
額をたたく。
「う…。」
「俺が起こしてやってるんだから、ありがたく起きろ」
「ひ、浩史のおーぼー」
「横暴、じゃなくてルールなんだよ」
「…浩史が、るーる?」
「そうだ。だから起きろ」
変な声をだしながら奈々子が起き上がる。
「寂しいなら寂しいって言えばいいのに」
「俺は寂しくないけどお前が寂しいだろ」
誰が素直になんて言うものか。
fin
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