やっぱり隣で
四六時中ピタリくっついて離れない、はいかがなもので。ましてや、そこまでピッタリだと他の楽しみがないわけで。離れて座っていたのが、あまり良くない結果を引き起こしてしまったらしい。
「私のついだ酒が呑めないとでも?」
篠崎ちゃん、飲みすぎ。なんて言われたけど、多分そんなことないし。まだまだ飲める気がする。呂律だってちゃんと回ってるし。意識だってあるし。
「…じゃあ私が飲むからいいです」
あ、と引き留められたみたいだけど、お構いなしに手にしたグラスを一気に空ける。入ってたの、サワーだっけ?ワインだっけ?忘れちゃった。
「奈々子ちゃん、そのお隣さん好きだねー」
「俺は今幼稚園児に懐かれてる気分なんですがね」
「あら。奈々子ちゃんみたいに可愛ければ役得だと思いなさいよ」
正面と隣で交わされる会話に口を挟まずに聞き入ってみる。
「そんなに言うなら今すぐ諏訪部くん呼んだらいいじゃない」
「や、それは」
「ほら、嬉しいんじゃない」
あれ?なんか、眠くなって、きた?重力に任せて隣に寄りかかる。引き剥がされかけたけど、抵抗すればため息と共に、相手の抵抗がなくなった。意識が切れるなー、なんて他人ごとのように感じた瞬間に腕を掴みあげられた。
「すみませんね。今日の所はコイツ連れてお先失礼させてもらいます」
回っていた酔いが止まった。顔は見ずとも、その声色で機嫌が悪いのが丸わかりだ。抗えば抗うほど、後が大変なことになるのは見えてる。大人しく連れられて帰ってきた。───順一さんの家に。
「あのな」
「はい」
ソファーの上で正座。正面に立っている順一さんの顔は、やっぱり怖くて見れません。
「別に仲良くするなってわけじやないけどな」
「はい…」
「奈々子、何事にも限度というのがあるのは分かるよな」
「はい」
「人と話す時は顔を見る」
慌てて顔を上げれば、思っていた表情とは正反対の笑顔で。あの、余計怖いっ。
「限度を守れない場合はどうする?」
やんわりと頭を撫でられる。撫でられたところで、怖いことに変わりはない。
「奈々子、どうするんだか分かるか?」
「あ、謝る?」
で当たっていてほしいのに。
「違うな。…お仕置き、だろ」
飲み会の席で二度と離れて座らないことを決意した夜だった。
fin
- 124 -