好きだから信じる
さっきから上着のポケットをゴソゴソと探り回って、一体なにをしてるやら。合間合間に合いの手か、あれ?とか、ん?とか聞こえてくる。
「どうしたの?」
「……やべ、まー君のとこだ」
ベッドサイドのミニテーブルに顎を預けていた。その状態から首を捻れば、掛けていたペンダントのチェーンがズレて、ひんやりとした感覚が走る。そこでやっと気付いた。
「もしかして、これ?」
ペンダントのチェーンに通された男物のリングを掌に乗せる。自分も顔を上げて、相手の目線までリングを持ち上げれば、ギクリとした反応が返ってきた。
「上着…似てたから間違えた」
「今頃森田さん彼女に誤解されちゃってるんじゃない?」
「その時はその時。あー失敗した」
探すのを止めて、ベッドに座った。その動きを追う。迷惑を掛けたことに失敗したと反省してるわけではないらしい。どっちかといえば、そっちには…冷たい。
「紀章、なにが失敗なの?」
「これじゃあ奈々子とペアじゃないじゃん?」
「じゃ、ないの?」
「ペアで持ったことにならないじゃん、てこと」
拗ねてる?なにか言ったほうがいいかな、と掛ける言葉を探していたら手招きされる。膝立ちで紀章の目の前に移る。なにを言うまでもなく、顎に掛かった手が顔を持ち上げて、唇を舐められた。
「紀章!」
「なに?」
なに、は何?なんでそんな平然としてるの?というより、今みたいのをサラッとやらないで!
「紀章」
「なに?奈々子」
あぁ、二の句が出てこない。これが呆れ果てるってことかな。
「機嫌直った?」
「多少は。後は、今日だけ奈々子がそれ外してくれたら完璧」
「ペンダント外すの?」
「だって今頃、俺のがまー君に触られてる可能性があるじゃん」
「う、うん」
「それってあっちとお揃いみたいじゃん」
言わんとしてることは分かった。大人しく外してあげよう。外したものをミニテーブルの上に置く。今度は後頭部を抑えられて口付けられる。
「紀章…さ、キス、好きだね」
「今日はそんな気分だから」
噛みつくようなキスだった代わりか、優しく頭を撫でられる。
「やっぱ飾りじゃなくてちゃんと嵌めておこうぜ?」
「だって仕事行ったら指輪は禁止なんだもん」
「俺は嵌めとく」
「どーぞ」
紀章の手が指輪に伸びかけて、止まる。
「次の休み、名前入れに行こうぜ」
あぁ、それは素敵なアイデアだね。言おうとして、また口を塞がれた。
fin
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