力強く


ベッドの縁に足がギリギリ乗る位置で体育座りで、渉がゲームをしているのを覗き込んでた。いまいちゲームの内容が分からなくて、ボンヤリし始めたから、気分転換にと、部屋を移る。キッチンに立つと、小腹も空いたし、なにか軽いおやつみたいなのでも作ろうかなと思案し始める。

「トースト切って揚げパンにしてもいいよね。コーヒーシュガーかけて。あーでも、林檎に蜂蜜とバターで温めて焼き林檎代わりでもいいかも」

どうしよう…あ、それなら紅茶入れてもいいかな。ミルクに蜂蜜とココナッツパウダー混ぜてもいかも。でもどうせなら、ミルクたっぷりのココアもいいかな。どうしようと迷っていたら、渉も出てきた。手にはまだゲーム機を携えていて、終わったわけではないらしい。その証拠に、ソファーに座ると、止めていたゲームを再開させた。なんだか残念に思いつつ、なんで部屋を移ってきたのかがわからない。

「渉もなにか食べる?飲み物でもいる?」
「奈々子」
「え?………え?」
「え?あ。えっと、声に出てた?今」
「うん」

普段、どんなふざけた時でも、そんな返事は一回もきたことがない。

「わわっ忘れて!ね?奈々子ちゃん、お願い!」
「渉」
「ダメ?」
「ダメ」
「あのね!なんかいきなり一人になったからキッチンで奈々子ちゃん何してるのかなって」
「それはこっちの部屋に移ってきた理由でしょ?じゃなくて」

というか、なに、その、こっちの部屋に来た可愛い理由は。じゃなくて。ソファーに座る渉の正面に立つ。見下ろす。そうすれば、言い訳を探すかのように渉の目が泳ぐ。

「わーたーるー。」
「ゲーム止めるから、ね?ほら、なんかちょっとお腹減らない?」

両手を頬に添えて顔を剃らせられないようにして、顔を合わせる。

「さっきの返答は冗談?言わないなら拗ねる切れる叩く口利かない」
「あー言います!言うから!」
「じゃあ言って」
「今日奈々子ちゃんの家に来た理由がそれだから」
「………え?」
「あーもう。だから言いたくなかったのに」

腕を引かれて渉へと倒れこむ。

「来ていきなりがっつくのもどうかと思ってゲームしてたんだよね」
「わ、分かりにくい!」

一気に体温が上昇しているのが自分で分かる。渉の手が背中に回されて、自由になった手で、今度は自分の頬を包む。あぁ、ほらやっぱり熱い。

「だって奈々子を好きで仕方ないから」

反論の言葉も見つからず、ただ渉の胸に顔を押し付けた。



fin


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