ないとめあ


嫌いになんてならないで。

「奈々子?どうした?」
「え?あれ?もう朝?」
「今夜中1時。ただいま」

目元にキスが落ちてきた。柔らかい匂いがして、ゆっくりと瞼を閉じなおす。

「泣いてた。どうした?」
「泣いてなんてないよ」
「じゃあなんでほっぺ濡れてんの?」

濡れてもいないもの。そう言い切ってから、自分で頬を触ってみる。

「………あれ?」
「濡れてるっしょ」
「………真さんマジック?」
「どんなマジックよ、それ」

わかんないけど。睡魔に少し距離を取られてしまい、目を擦りながらベッドの上、体を起こす。

「あーほら、目を擦らない」

真さんの袖で目元を押さえられる。

「これ、綺麗?」
「………擦るよりマシじゃん?」

……………そう?これは声には出すまい。

「んで?奈々子。変な夢でも見た?」

その一言で、目を覚まして忘れたはずの夢の一言が、記憶の奥から泡のように浮き上がってきた。そうして、何度も何度も、泡が表面に浮き上がってきて弾けるように、リピートを繰り返していく。

嫌いになんてならないで。キライニナンテナラナイデ。

きりのない泡を振り切ろうと、緩く頭を振る。それだけでは足りない、と必要のない焦燥が急き立ててくる。

「真さん。好き。大好き」
「ん。俺も好きだよ」
「嫌いじゃない?」
「今の返事を聞いてまで、その質問出てくるか?」
「……ごめん」
「や、謝る必要もねーけど。つか、どうしたの?」

必要のない夢なら口に出したくない。口に出さずに、夢は夢のまま。ただの夢なら、そこに自分の気持ちがなければ、忘れていくだけの夢だから。

「変な夢見たのかも。でも真さん帰ってきたし。平気」
「そう?」
「うん。真さん、早くお風呂入っておいでよ」
「そうする。でも、あーた先に寝てなよ?」
「えー待ってたいよ」
「……舞ってるなら許可する」
「……大人しく寝ます」
「はいよ。おやすみ」

改めてベッドに横になって目を閉じれば、柔らかい匂いが更に濃くなって、唇にキスが降ってきた。明日の朝、絶対早起きして、真さんに、仕返し、するんだから………。

大好きのままでいてください。



fin


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