もう待てない


最後までバカみたいに明るく笑って、いや、ガチでバカなんだろうけど。…待ってろっつーんなら手紙くらい寄越せってんだよ。

「なんで俺が、あークソっ!」

足元にあった枕、なんでベッドの上にないんだかは置いとく。その枕を苛立ち紛れに蹴りつければ、積み上げてあったゲーム、仕事の原本の山に当たって、それらを崩した。

「なんなんだっつーの」

そのまま座りこんで、天井に向かって息を吐き出す。
約束の一年は簡単に過ぎた。過ぎてなお2ヶ月たった。…なにがコッチ帰ってきたら一番に連絡する、だよ。アイツのいない1日1日に慣れてっちまうかと思ったけど、全然んなことねーし。むしろ───足りない。

「つーかオーストリアってなんだよ」

遠いっつーの。
俺から連絡するとか、マジで女々しくてヤなんだけど。かけるしか、ねーよな。携帯、番号変わってねーよな?アドレス帳から引き出す。ボタンを押すと、あっけないほど簡単に繋がった。

「もしもし?裕行?」

ワンコールかからずに出やがった。なんか悔しいから、切る。すぐにかかってくる。

「あーもしもし?」
「切るってなに?酷くない?なに、新手のイジメ?」
「いつ帰ってきたんだよ?」

奈々子の反論らしきものをスルーして、一番訊きたかった質問をぶつける。………。

「なんだよ?」
「あ、のね」
「おう」

小さくかすれていく声。この声はいつも、泣く一歩手前。

「怖かったの」

アウト。泣いた。電話で良かった。今は俺も余裕がない。

「奈々子。次会ったらお前の文句は聞かねぇから、今言え」
「だって、裕行がっ…私のこと、忘れてたらどっしよ…て」
「この、ばかっ!んなわけあるかよ!」
「怖かったんだもん!」

あー、会った方が良かった。抱きしめてー。一年て月日はやっぱ長くて、離れてたら、いくらお互いを信じててもコエー。

「なぁ。奈々子?奈々子ー?聞いてんのかよ?」
「なぁに?」
「なんで手紙送ってこねーんだよ?」
「送ったら、帰りたくなると思ったから」
「やっぱ奈々子はバカ決定」
「…今思えば、本当にその通りです」

少しは色っぽくなってんのか?とか、やっぱ変わってねーのか?とか、色々考えてから、とびっきり甘い声ってやつを出してやる。

「んで、明日会えるんだよな?今からでもいいぜ?」

奈々子がいる。やっぱそれが日常。



fin


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