卑怯×3=俺様主義


酒乱とまではいかないものの、お酒大好きで。女癖だってあんまりよくない。付け加えて、縛られるのが嫌いで、楽しければなんでも。要は俺様主義なんだ。

「………え?」
「聞こえなかった」

相手の手が伸びてきて、フニリと唇を摘まれた。会ってまだ1時間だというのに、目の前の人物はなんと言った?じゃ、と告げられて、デートだと去っていく後ろ姿を呆然と眺める。あぁ、あの背中に手裏剣でもウニでもヒトデでもイガグリでも投げつけてやりたい。デート?デートだって?───誰と?信じられない、と思う自分と、またか、と諦めてる自分がいる。この自分のやるせない気分を紛らわしてくれるかのように携帯が鳴った。夜飲まないか?と誘われて、今断るなんてはずがない。
少し静かで、少し騒がしくて、そんな雰囲気が2つ混じり合って、程よい空間になってる飲み屋。あぁ、ここ好きかも。とは思ったけど、失敗したかも、とも思う。

「前から奈々子ちゃんイイと思ってたんだよね。でも彼氏いるじゃん?だから無理かなーとか思ったんだけど、なんか上手くいってねーみたいな話聞いたわけよ」

相手は大学の同期で、今でも割と仲間内で会ってる奴。だいぶ酔いが回っているのか、よくまぁペラペラと。

「だからさー、遊びでもいいよ。俺と」

ふと視線を感じて、自分もその視線を探る。

視線が合った。目の前の人物のさらに後ろ。

「俺と付き合おうよ」

あなたはそこで見てればいい。横に並ぶソノ人と、見ていればいい。

「いいよ」

知らず知らずのうちに口が笑っている。

「奈々子!」

女性は何も言わず、何も見なかったかのように店を出て行った。浩輔が近づいてきて、間に挟まれるようになった相手はうろたえてる。

「返事明日でいいから」
「んなもの、ノーに決まってるだろ」
「私はイエスって言ったはずだけど」

相手は立ち上がって、逃げるように店を出て行った。勘定はしていってくれた辺り、律儀だ。

「浩輔だって同じことしてるじゃん」
「それとこれは別なんだよ」
「どこが?一緒でしょ?」
「違う。俺のものは俺の。他のやつに奈々子を所有されるなんて有り得ない」

開いた口が塞がらないとは、こういう時にこそ相応しい。

「俺を所有したいなら、もっと俺を、俺だけを好きになれよ」

やっぱり浩輔は俺様主義。改めて分かったのは、私は愛され過ぎているらしいこと。



fin


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