海賊の子 | ナノ

お兄ちゃん勝負


カラオケ・ボウリング・ビリヤード・ゲームセンターなど、あらゆる娯楽設備が揃う複合エンターテイメント施設。辺りには陽気な大学生や高校生、仕事帰りの社会人達の姿がちらほらと見受けられた。

そして今そこに、杉元佐一はいた。
一仕事終えた後にアシリパ達と合流する予定だった筈の彼は、カラオケ施設の受付所前にある広場で唖然とした顔で突っ立っている。

「遅いぞ杉元!一時間も遅刻だ!」
「翔太……そろそろ許してくれ。私が悪かったから……。なぁ、もう一度抱っこさせてくれ……頼む翔太……」
「…………」
「だぁあ!しつけーよあんたも!翔太が怖がってんだろ!」
「いかんぞぉ、鯉登。そんな弱腰では警察官は務まらん。シャキッとしろ、シャキッと」

その原因とも言えるのが、広場に集まる者達の存在だった。
本当なら自分は、今頃翔太が開いてくれた歓迎会で思う存分楽しんでいる筈なのだが。目の前には、自分の元上司と元同僚と、全く見覚えのない人物が翔太とアシリパ達を取り囲んでいた。翔太に至っては何故か目元を腫らして白石の後ろに隠れている。自分がいない間に一体何があってこうなったと言うのだろうか。

「杉元」
「あ……月島、さん……」

集団の奥から現れたのは、杉元のよく知る人物だった。ジャケットを脱いだカジュアルスーツ姿の月島は、少し申し訳なさそうな顔をして杉元の前にまで出てきた。

「こんな事になってすまないな……。まさかお前達もここで歓迎会をしているとは思わなかった」
「お前達、も……?」
「ああ。……あそこにいる褐色の男が見えるか?」
「え? あ、あぁ……はい」

月島に目配せを受け、杉元は視線を奥にいるそれらしい男に向けた。白石の後ろに隠れて怯えている翔太に、やたら擦り寄ろうとしていた。杉元の眉間に思わずシワが寄る。

「あの方は鹿児島から転勤してきた鯉登音之進という警部補だ」
「警部補?」
「ああ。今日はあの方の歓迎会で、鶴見警部達とここに訪れたんだが……警部補は何故かあの子にひどくゾッコンでな……。自分の歓迎会にあの子を入れたいと言って聞かんのだ……」
「なっ……!?」

杉元は憤慨した。そもそも今回の歓迎会はあくまでも杉元が主役であり、その開催主は他でもない翔太である。その歓迎会に絶対欠かせない存在を、どこの誰とも知らない男の歓迎会に取られるなんて到底許されるべきではない。

「そんなの無理に決まってんだろ!」
「落ち着け。俺だって何度も説得した。しかしどうやらあの二人、何か訳ありのようなんだ……」
「訳あり〜?」

杉元は訝しげな表情で鯉登の方へ目を凝らした。鯉登は未だに白石の後ろに隠れる翔太に語りかけている。

「なぁ翔太、本当に覚えていないのか? 昔はあんなに私の後をヒヨコのようについてきていただろう……?」
「……知らないもん……」
「私のことを『にぃに』と呼んでくれたことも覚えていないのか……?」
「……覚えてないもん……」
「そ、そんな……」

鯉登の口ぶりからして、どうやら彼は翔太のことを知っているらしい。翔太は鯉登のことを知らないと言い張っているが、翔太が鯉登を否定する度に鯉登は今にも泣き出しそうな顔をして見せる。杉元はどうにも、二人がお互いに嘘を言い合っているようには見えなかった。

「僕のお兄ちゃん、由兄ちゃんだけだもん……お兄さんのこと、僕知らない……」
「由……兄ちゃん……?」
「あー、俺だけど」
「貴様か……」
「うぎっ!?」

名乗り出た白石に対し、鯉登は怒りと憎しみに歪んだ顔を見せた。禍々しいほどの低い唸り声を上げ、ゆらりと白石の目の前に立ちはだかった。

「よっ……よくもおいんむぜ翔太ばたぶらかしおったな、貴様!許さん!おんごた極悪人は逮捕して死刑じゃ!おいから『翔太のにぃに』の座ば掠め取った罪で死刑じゃーッ!」
「ちょぉッ!? なにっ!? 何コイツ!? っていうか何言ってんの!? さっきから言ってること全然意味わかんねーよっ!」
「ふむ……鯉登警部補の父君は一時期、白石松栄殿と同じ海上自衛隊幹部候補生で、二人はご親友同士であったそうだな」

鶴見のその言葉に反応した鯉登が、まるで時を止められたかのように急に動かなくなった。殴られると思って身構えた白石も、その周りにいた者も、誰もが鶴見の言葉に絶句し呆然としていた。

「その子が本当に白石松栄殿の御令息であるというのなら、鯉登警部補とその子が過去に出会っていたというのにも納得がいく」
「さっ……流石鶴見警部殿!鶴見警部殿ならわかってくるっと信じちょりました!確かにおいは父ん紹介で白石松栄殿とお会いしたこっがありました!そん時初めて出会うた翔太はこげん小さっむぞうておいんこっをいつも『にぃに』て呼んでくれちょったとです!そりゃあもうおいも自分んおとっじょんごつ可愛がって……」
「落ち着け。早口の薩摩弁だと全く聞き取れんぞ」

鶴見に対し瞳を輝かせ早口に薩摩弁を話す鯉登に、月島や尾形を除いた周りにいる者達がドン引きした表情で見ている。月島と尾形の二人は慣れているのか、表情一つ変えずに鯉登の暴走を遠目に眺めていた。鯉登は自分の言葉が鶴見に伝わっていないと判断するや否や、傍観者を貫こうとしていた月島の元へ猛スピードで駆け付けた。途端、月島の表情が虚無に変わる。

「しかしまあ、事情はわかった。つまるところ、鯉登警部補は翔太くんと一緒に今日の歓迎会を楽しみたいという訳だな?」
「……、…………」
「……『はい。鶴見警部殿の仰る通りであります』と仰っております」

鶴見の問い掛けに対し、鯉登が隣にいる月島へ耳打ちするとそれを月島が慣れたように通訳する。俺はこの為だけに呼ばれた鯉登警部補の付属品のような存在だ──月島はそう真顔で胸の中で呟いた。

「どうかね、翔太くん。ここは一つ、私の可愛い部下の為にもその些細な願いを叶えてやってくれんかね?」
「ぁっ……」

ニコリと笑顔を浮かべて、手を後ろに回した状態で上半身を前のめりに倒してきた鶴見の言葉に、翔太は怯えた様子で白石の後ろに半分身を隠した。

「で、でも……僕、今から杉元お兄ちゃんの歓迎会する……」
「キエェェェェェッ!!」
「ぅっ……」
「そういうところだぞ、鯉登警部補」

久々の再会だというのに溺愛する翔太には忘れられ、怖がられ、兄の座を奪われる──鯉登はショックのあまりに腰を抜かし、白目を剥いてその場にへたり込んだ。

それを見て不憫に思ったのか、良心を痛めた翔太がオロオロとしながら杉元と鯉登を見比べた。しばらく見比べた後、翔太は周りの景色に溶け込んでいた尾形に目を向けるなり、突然尾形の元へと駆け寄って行った。

「えっちょっ、翔太……!?」
「翔太くん!?」
「翔太!」

白石達に呼び止められるも、翔太は尾形の元にたどり着くと彼のスラックスを小さな手でわし掴んだ。今までじっと傍観していた尾形の視線が、足元に立つ翔太についと向けられた。

「……尾形お兄ちゃんも一緒なら、いいよ……」

翔太のこの一言に、白石・杉元・鯉登の顔から一気に血の気が引いた。三人のお兄ちゃん'sは「よりにもよってこの男か」と同じこと考え、絶望し、屈辱感に苛まれた。
選ばれた尾形は満更でもないのか、特に嫌がる様子も見せずむしろ絶望トリオの様子を見て愉しんでいるようだった。小馬鹿にしたような嘲笑が尾形の顔に表れている。

「よし決まりだ!では翔太くんは早速我々と……」
「おっ、おい!まだ決まっちゃいねーぞ!翔太の保護者は俺だ!最終的な決断は俺がする!」

そこに待ったをかけたのはいち早く復活した白石であった。

「確かに、言われてみればそうだな……。世間一般的な常識ではそうなるだろう。ではこうしようじゃないか、白石くん」
「あ?」

鶴見は広場の傍にある、ゲームセンターへの入り口を手で指し示した。奥には多種多様なゲームが用意してあるのが見える。

「ここにあるゲームで健全かつ公平な勝負を行い、勝った者が翔太くんと歓迎会を楽しむというのはどうだ?」
「おい、それは歓迎会と呼べるのか……?」
「望むところだぜ!」
「おい、白石!?」

アシリパのツッコミも虚しく、こうして『翔太と歓迎会ができる権利』の争奪戦は始められた。


◆◆◆


学校帰りの学生達で賑わうゲームセンターで、いい年の大人達が真剣な表情で対峙している。その禍々しい雰囲気になにか良からぬものを察したのか、妙齢の青少年達は皆すごすごと彼らから離れて行った。

「今回勝負に使うゲームは、このガンシューティングゲームだ」

鶴見は傍にあるアーケードゲームを手で指し示し、既にやる気に満ち溢れている男達にゲームのルールを説明し始めた。

「主題は『特殊部隊』で、プレイヤーは国連組織の擁する極秘精鋭特殊部隊の隊員となり、様々な任務をこなすことにあるそうだ。つまりこのゲームでは『戦術格闘』、『爆弾解除』、『狙撃』、『ステルス』、そして『人質救出』をメインとしているらしい」
「……っ」

鶴見の言い放った『人質救出』というワードに、杉元は苦い顔を浮かべると視線を床に落とした。鶴見はそんな杉元のことなど気にもせずにルール説明を続ける。

「ステージが三つという事もあるので、勝負は三回だ。三つのミッションでより優秀なスコアを稼いだ者を勝ちとする。無論、ゲームオーバーは失格判定だ」
「おい、それじゃあ銃を扱えそうな奴が俺と白石しかいないこっちの分が悪くなるだろ」
「安心しろ。こちらも二人しか対戦に出さん。……鯉登警部補」
「はいっ!」
「尾形巡査長」
「……はぁ……」
「健闘を祈るぞ、二人共」

名指しされた鯉登は張り切った様子でゲームの前に立った。一方で尾形はあまり乗り気ではないようで、ため息をつくと面倒くさそうに鯉登の後ろに立った。

「うし、じゃあ一番目は俺で行かせてもらうぜ!」

鯉登に負けず張り切った様子で前に出てきたのは意外にも白石で、彼は目の前にいる鯉登に対しても怯むことなく対峙した。

「大丈夫なのか、白石……」
「まあ見てなってアシリパちゃん!俺これでも学生時代は『ガンシューの白石』と呼ばれて近所のガキ共に恐れられていたんだぜ!」
「お前それ、あまり自慢になっていないぞ……」
「では両者共に銃を構えたまえ!」

二人は鶴見の掛け声に従いゲームの前に立った。付属のライトガンを手に、真剣な表情で画面に向き合う。

「……貴様が誰であろうと私の翔太をたぶらかしたことは絶対に許さん……!必ず貴様に勝って、私は翔太を取り戻す……!」
「へっ、勘違い野郎の戯言は聞く耳持てねぇな」
「ぐっ……!」
「では、スタート!!」

二発の銃声によって勝負(ゲーム)は始められた。操作方法の簡単な説明が画面に表示される。鯉登はその僅か数秒の間に銃の操作方法を頭の中へと叩き入れた。

二人の最初のミッションは『大統領の奪還』であった。国際テロ組織にハイジャックされた大統領専用ジェット機の逆制圧、そして大統領の救出がこのミッションの要である。

次々と現れる敵を二人は各々撃破していく。まだ序盤ということもあってか、二人のスコアに今のところ大きな差はない。しかし敵の数が増えてきた頃になって、白石と鯉登の戦況にある変化が現れ始めた。

「! まずいぞ白石!お前っ、体力値が半分しかないじゃないか!」
「えっ!?」

アシリパの言葉通り、白石の視点左上にある体力値は最初の頃に比べて明らかに減っていた。白石はスコアに狙いを付け過ぎたがあまり、余計な配置物までもを撃ち壊していた。その分ポイントは入るが、敵から狙撃されるリスクも高くなる。気付かない内に白石は敵から撃たれまくっていたのだ。

「何やってんだよ白石!」
「クソ!」
「ふははは!欲に目が眩んだ男の末路とは恐ろしくも愉快なものだな!」

高らかに笑う鯉登はガンシューティングゲームが未経験であるにも関わらず、ゲーム開始時からずっと好成績を出し続けている。その理由は過去に行った射撃訓練の賜物であるのは間違いないのだが、彼を本当に突き動かしているのは“翔太の奪還”という、このミッションに自分自身の使命を重ね合わせていることだ。

結局、増え続ける敵に対し蓄えを持たない白石はあっという間に惨敗してしまった。

「あんな大口叩いておいてなんだ!そのザマは!」
「役に立たねえなシライシ!」
「くーん……」
「由兄ちゃん……頑張ったね、えらいね……よしよし……」

アシリパと杉元に怒鳴られ落ち込む白石を、翔太はそっと寄り添って慰めた。白石は号泣し、翔太を強く抱きしめた。その様子を見ていた鯉登が、勝負には勝ったのに負けたような気分を味わい、形容しがたい複雑な表情を浮かべた。

「ぃよぉし、次は鯉登vs杉元だな? 両者、準備に取り掛かりたまえ」
「使えねー白石はすっこんでろ。俺が巻き返す」
「仇をとってくれぇ、杉元ぉ」

泣き言を言う白石の前に出た杉元が、既に準備を整えていた鯉登に対峙した。二人の視線がぶつかり合い、火花を散らしている。

「痛い目にあいたくなければ今のうちに辞退した方が身のためだぞ」
「なんだよ、まるで俺と戦いたくないみたいだな。俺に負けて翔太くんに幻滅されるのがそんなに怖いのか?」
「くっ、生意気な男め……!」

銃を構える二人の画面に、次のミッションの内容が表示された。第二のミッションは『敵組織のアジトを壊滅』である。アジトで待ち構える敵組織を壊滅させて、自爆用に設置されてある爆弾を全て解除するものだった。

今回のミッションも射撃経験者である鯉登に有利かと思われたが、序盤から中盤にかけて続々と現れる敵を、鯉登も杉元も次々と問題なく撃破していった。

「これならいけるかも……!」
「いや、待て……!」

しかし終盤になって、敵を壊滅させた後に登場する小爆弾に二人はかなり手こずっていた。間違った解除ボタンを選ぶとプレイヤーにダメージが入るのだ。二人の体力値が少しずつ削られていく。

「くっ……照準が合わない……!」
「クソ……!何が間違ってんだ……!」

このままでは共倒れである。どちらかが一つでも爆弾を正しく解除できれば、それだけ終盤は有利になる。二人は焦りつつも、残り時間を気にしながら爆弾の解除に当たった。

「ふむ……このままじゃ二人共ゲームオーバーとなるが、そうなれば杉元のチームは負けということになるな」
「……!」

鶴見のそんな呟きを聞いた翔太は、白石の元から離れると杉元の足元まで駆け寄った。

「ぁっ……す、杉元お兄ちゃん頑張って……!」
「……っ!」
「キェッ……!」

翔太からの突然の激励に、杉元は目を見開いて驚いた。一方鯉登は翔太からちっとも応援の言葉をかけてもらえず、ショックのあまりに銃から手を離してしまった。

「あ」

これが決定打になった。本来鯉登が解除するべき爆弾は大爆発を起こし、画面右上にある体力値が一気にゼロになる。途端に右側の画面に表示されたゲームオーバーの文字。そして鯉登自身も、人生のゲームオーバーを迎えていた。

「情けないぞォ、鯉登警部補!」
「やったな!杉元!」
「さっすが杉元!見直したぜ!」
「いや、あれは……翔太くんの応援のおかげだ。応援してくれてありがとな、翔太くん」
「うん……!」

杉元に頭を撫でられ、翔太は擽ったそうに微笑んだ。

「…………」

床に座り込み燃え尽きている鯉登を尻目に、今度は尾形が前に出る。先程まで穏やかだった空気が緊張に張り詰め、辺りが沈黙に包まれる。

「……俺は正直こんな勝負はどうでもいいと思っている」

先に口を開いたのは尾形だった。尾形は鯉登が床に落としたままにしていた銃を拾い上げ、色んな角度からパーツを眺める。実銃と似ても似つかない派手な形状と色彩に設定されたガン・コントローラーは、尾形が持つと何故か異様な不気味さを感じさせた。

「だがお前相手にここで負けを選ぶのも面白くない。どうせ“どうでもいい”と思っているのなら、お前を負かして楽しんだ方がいいと俺は思うんだよ、杉元」
「……言いたいことはそれだけか」

杉元は銃を構えた。尾形は何の意味もないらしい微笑をフッと唇のふちに浮かべ、杉元と同様に静かに銃を構えた。二人の前にある画面に、最後のミッションが表示される。

『ホテルに捕らわれた人質の救出』

画面に出たミッションの内容を目にして、杉元は人知れずに眉を潜ませた。尾形の口角に再び歪な笑みが浮かぶ。

「皮肉なミッションだな、杉元」
「黙れ」

銃撃が始まった。体の一部を少しでも出した敵は、全て尾形の的になった。負けじと杉元も敵を撃破していく。

「チッ……やはり玩具じゃ狙いが狂うな……」
「どうした尾形、ペースが落ちてるぜ」

尾形が狙撃したはずの部分は意外にもハズレが目立っていた。それもそのはずである。これはあくまでもガンシューティングゲームであり、実弾が発射されること決してはない。実弾なら当たると見込んで狙いを定めていたとしても、それが狙った場所に当たるとは限らないのだ。定まらない画面越しの差異が尾形を苛立たせた。

「お前、頭ばっか狙ってっからハズレが目立ってるぞ」
「人のこと言えた口か? お前が取り逃がした奴は全部俺が片付けてやっているのを忘れるなよ」

お互いに相手を挑発し合うが、ゲームが進むにつれて二人のミスが少しずつ目立ち始めた。尾形は相変わらず狙いが定まらず敵を撃ちこぼし、杉元は突然割り込んでくる人質を誤って撃ち殺してしまっていた。二人のスコアと体力値が徐々に落ちていく。

「どうなっちまうんだ、この展開……」
「杉元!負けるな!頑張れ!」
「くっ……」

「尾形ァ!貴様負けたやタダじゃ済まさんぞ!二度とおいに生意気な口を利かせなっさせてやっでな!」
「『尾形。負けたらタダじゃ済まさないぞ。二度と俺に生意気な口を利かせなくしてやるからな』だそうだ」
「わかってますよ……」

苦戦する二人を見比べていた翔太が、どっちつかずな動きでオロオロとしている。しかししばらくして何かの覚悟を決めたのか、翔太は両手の拳を握ると目をぎゅっと瞑って声を搾り出した。

「……っお兄ちゃん頑張ってぇ!!」

尾形と杉元の目がカッと見開いた。ブレてミスが目立ち始めていた二人の照準が、まるで機械が操作しているかのように正確な位置に動いている。尾形の狙撃は調子を取り戻し、杉元の射撃もより正確になった。
二人のスコアが今までにないスピードで高まっていく。

「何だあの二人……!」
「あんなの見たことねぇ……!」
「プロゲーマーかよ……!」
「動画撮ろうぜ、動画!」

二人の活躍に野次馬が集まり始めた。中には動画を撮影する者まで現れ始め、鶴見はこの由々しき事態に顎を撫で、困ったような様子を見せた。

「いかんな。外野が騒がしくなってきた。これはお互いにとっても不味い展開だぞ」
「ちょっ、写真やめて!特にこの子とか写さないで!困るから!」
「月島、今日はもう引き上げるぞ」
「はっ!」

無遠慮に自分達を撮影する野次馬など目もくれず、尾形と杉元は真剣な表情で今も敵を撃破していた。見兼ねた白石と指示を受けた月島が、二人の手から銃を取り上げた。

「おい!」
「ッ、何の真似だ」

尾形も杉元も当然抗議したが、いつの間にか自分達の周りにできていた謎のギャラリーを見るなり、二人は口を閉ざして息を詰めた。

「撤収だ、撤収!今回の勝負の結果は次回にお預けだ!」
「何だよそれ!」
「では各自、解散!」
「おいッ!……くそっ!」

鶴見の合図と共に、鶴見達も白石達も一斉にゲームセンターから出て行った。

「翔太!」
「……!」

騒がしい中で、自分を呼び止める声。
翔太が振り返ると、月島に腕を引かれていく鯉登の切なげな表情が見えた。

「おいはわいんこっ……!ずっと待っちょっかなァ!!」

半べそでそう叫ぶ鯉登に、翔太は言われた言葉の意味はわからずとも、とりあえずとばかりにバイバイと手を振って見せてやった。

「……!」


その直後の鯉登による猛烈な叫び声が施設を揺るがしたのは、言うまでもない──


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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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