※※第309話:Make Love(&Desire).187








 「え〜、マジで?俺が思ってたのと犯人違った……」
 推理が見事に外れた屡薇は驚きを引きずりながら、麦茶のおかわりを持ってこようとした。
 彼女はよほどドラマに集中していたのか、一ミリも麦茶は減っていない。

 「え?犯人?」
 集中などしておらずむしろずっと緊張していた真依は彼の言葉でふと我に返り、犯人の意味がわからずキョトンとしている。
 ドラマ鑑賞を提案しておきながら、これっぽっちも観ていなかった。


 「うん、そう。俺ずっと奥さんだと思ってたのに、愛人の息子の愛人の父親の愛人だったじゃん。」
 「えぇえ?何その複雑な設定……」
 屡薇は推理が外れたことを悔しそうに話したところ、真依は設定の複雑さに困惑した。
 そこまで愛人を登場させる必要があるのか、と。

 そもそもそこまでの赤の他人を犯人にする必要はあったのかと。



 「いつもあんな展開なんじゃねぇの?」
 「あっ、そうだねっ……そうかもしれない!」
 あっけらかんと尋ねられた真依は慌てた、危うく、毎回観ている設定を忘れるところだった。
 麦茶をグラスに注いだ屡薇は彼女が慌てている様子を特に訝しく感じることもなく、ごくごくと水分補給をする。

 「あの、さ、屡薇くん……」
 「何?」
 すると突然、俯いた真依が尋ねてきた。

 「シャワー、浴びてきてもいい?」

 と。
 意外すぎる質問に屡薇は思わず、麦茶が入ったグラスを冷蔵庫に叩きつけたくなった。



 「えっ?何で真依さん、シャワー浴びてぇの……?」
 動揺のあまり、聞かないほうがよいとしか思えないことを聞いてしまう。
 「細かい髪の毛とか、ついてそうだから……」
 真依は俯いたまま、美容師という職業柄細かい髪の毛の付着が気になるだけだとか弱く主張しているように見えるが。
 だったらなぜ、部屋に着いて早々には浴びなかったのか、そんなに恥ずかしそうに口にしているのか。

 「ああ、そう……うん、浴びてきていいよ?てか髪の毛が気になるんだったら着替えたほうがよくね?俺のTシャツ着る?」
 己の心を落ち着けるためにも頷いた屡薇は、シャワーを浴びても服についていたら元も子もないと思い気を遣った。

 「……着る……」
 「着んの!?マジで着んの!?俺のTシャツだよ!?」
 「着るったら着る……」
 「ちょっ……そんなに可愛いのとか持ってねぇけど!」
 結果的に、真依は彼シャツを受け入れることとなった。


 余計に落ち着かなくなった屡薇は慌てて、シャツを持ってくるためクローゼットへ向かった。
 ちなみに、彼女から借りたままのジャージをこの機会に返すという手もあるのだけど、今は自分のTシャツを貸すことしか彼の頭にはなかった。

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