※※第346話:Make Love(&Perv).210








 朝食のメニューはサラダなどのヘルシーなものがいっさいなく、重いものばかりだった。
 オススメはビーフストロガノフらしいのにカレーもハヤシライスもあるし、正直メニューだけで胸焼けがしそうな萌の口数は極端に少ない。
 ちゃんと手を洗って作ったんだよね?とも聞けなくて、ほそぼそと唐揚げをつついていた。


 「萌ぴょん、具合悪いの?」
 「ひぇええ!」
 「どっ、どうしたの……?」
 声を掛けられただけで、この過剰反応。
 綾瀬は意味がわかっていないが、今朝のアレを見られたのではないかと少しは危惧してもよさそうである。

 (怖い……!じつは男の子だった一樹んが怖い!)
 怯えながらも赤面している萌は彼の顔がまともに見られない。
 「今日は何しよっか?時間はたっぷりあるし。」
 微笑んでいる綾瀬は妙にすっきりしているようだ。
 そりゃ朝から好きな女の子の寝顔で抜いたなら絶好調ではあるだろう。


 もう帰りたい!と思っていると、綾瀬のアパートのチャイムが鳴った。
 これについては萌より綾瀬のほうがあからさまに怯えた。

 「一樹ん、誰か来」
 「喋っちゃダメっ……!」
 誰か来たよ?と言おとした萌はすかさず手で口を塞がれる。
 客人が来たのならおいとましようという兆しが見えたのだけど、まさかの急接近で打ち砕かれた。

 綾瀬には恐いくらいわかっていた、こんな時間帯に約束もなく訪ねてくるのは兄しかいないことが。



 「一樹、お前の大好きなお兄ちゃんだぞ〜?お前が宇宙で一番大好きなお兄ちゃんがやって来たぞ〜?」
 ドアをノックした綾瀬兄は、弟の自分への愛を勝手に創造しアピールする。
 そんなに好きなら音信不通にならないだろ!と突っ込みたくなった綾瀬と萌は、同時にイラッとした。
 ブラックホールに飲み込まれてしまえと思うくらい、綾瀬兄はふたりにとって共通のストレスになっていた。


 「……いないの?まさか、一樹が朝帰り!?」
 居留守を使われているとは気づいていない兄の想像力は、意外と逞しかった。
 朝帰りではないのだけど男女でお泊まりはしたため、不覚にも綾瀬と萌は同時に頬を赤らめる。


 「やっぱり彼女いたのか、一樹よ……!」
 何の用事があって訪ねて来たのかいまいちよくわからない綾瀬兄は、泣きながら家に帰って行った。

 「だったらお兄ちゃんに紹介してくれたっていいじゃーん!」

 と、いないと思っている弟に対して捨て台詞を残し。
 お兄ちゃんが一番でいて欲しいのか、彼女ができた場合お兄ちゃんに紹介さえすればいいのか、どちらなのかも正直よくわからない。




 「………………。」
 まだ付き合っていない綾瀬と萌はただただ気まずくなり、口を塞いだまましばらく無言でいた。

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