※※第345話:Make Love(&Sex aid).49








 ナナは夕食に、山盛りのホットケーキを目の前にしていた。
 溶けたバターはキラキラして、はちみつとの相性がとても良さそうだ。

 「どうしたんですか?こんなに……」
 フォークとナイフを手に、ナナはいささか困惑している。
 「おまえが山盛りのホットケーキを食いてえっつったんだろ?」
 普段はあまりエプロンを着けて料理をしない薔が、今日はなぜかシンプルにネイビーのエプロンを着けている。
 非常に似合っている上に貴重で、何ともナナ得である。

 「あっ、そうでした!ありがとうございます!」
 言った覚えはないのだけど納得したナナは、豪快に切り刻んでホットケーキを食べようとした。
 ところが、山盛りすぎてバランスを崩しあろうことか床にホットケーキやらバターやらはちみつをぶちまけてしまった。



 「ぎゃあああ!もったいない!」
 せっかく彼が作ってくださったのにと、ナナは青ざめ慌てる。
 そんな彼女へと、すっと薔は手を伸ばした。
 何をされるのかと怯えたのも束の間、彼は口許についていたはちみつを親指で拭ってくれた。

 まだ食べていないのに、どういった経緯で付着したのだろう?



 「大丈夫だよ、作ればまだある……」
 しかも薔はめちゃくちゃ、優しかった。
 何にも怒っておらず呆れてもおらず責めもせず、爽やかに微笑んだだけだった。
 「王子ちゃんさま……」
 うっとりしたナナが手にしているのはいつの間にか、赤い薔薇に変わっている。

 もうホットケーキはいいので抱いてください……と思っていると、ナナは目を覚ました。







 「起きたか?」
 ぼんやりしている彼女を、薔が見下ろした。
 とは言っても、同じ角度から見下ろしているわけではないしやたらと心地がよくて最高だった。
 ナナは彼に膝枕をされながら、至福のうたた寝をしてしまったようだ。
 ナナが甘い夢を見ていたのは、膝枕の賜物だった。

 「あああ……ほんっものの王子ちゃんさまです……」
 「……ん?」
 うっとりするナナは本物の美麗さに感動し、寝起き早々に「王子ちゃんさま」で来られた薔はちょっと首を傾げた。
 いったいどんな夢を見ていたのか、詳しく聞き出したくなる。

 「ホットケーキは……?」
 「食いてぇのか?」
 「えっと……それより、エプロンを着た薔を……」
 「要するにおまえは、夢ん中で俺を食ってたのか?」
 「残念ながら食べてないです……」
 ナナの問いかけから夢の内容を薔は推測しようとしたが、残念ながらホットケーキすら食べていないのだった。
 このときようやく、彼女は膝枕をされている事態に激しく気づいた。

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