※※第343話:Make Love(&Impatience).208








 くすぐったくて、彼がおそろしいほどに色っぽくて、ナナはぶるりとふるえた。
 くちびるの感触はやわらかくて優しいのに強烈で、鮮麗で、肌に掛かる吐息もふわりとしているのに、艶かしい。



 「今日はどうやって、……気持ちよくさせてくれる?」
 薔は少し甘えた声で、問いかけた。
 流れるような視線を不意に上へ向けて、彼女を誘っている。
 これらの台詞は、桜葉ノートに書かれていそうな台詞を敢えて口にしているだけだったが、かなり原作に忠実な内容となっていた。
 夕月の場合はそんなことを聞かれたらめちゃくちゃに攻めるのだけど、ナナ版夕月だとそうもいかない(※夕月版夕月でお楽しみいただけるかたはご自由にどうぞ)。
 あたふたしつつ興奮して、何かを仕掛けることもできずにいる。


 (これは非常に……困りましたよおおおおお……!)
 こんなに素晴らしい攻めムードを、わざわざ作り上げてもらっているのにまだ何もできていない自分がもどかしい。
 でも、これは役得すぎて、ぞんぶんに味わっていたい時間でもあった。


 「ちょちょっ、ちょっとあの、落ち着いてください!薔っ!」
 「俺は至って落ち着いてるがおまえがひたすら落ち着いてねぇだろ、」
 「それはそうですーっ!やっぱり落ち着いてらっしゃるおかたは、おっしゃることが違いますねーっ!」
 ナナは興奮のあまり微塵も落ち着いておらず、反して誘惑を止めない薔は落ち着きはらっているように見えた。
 落ち着いているとこんなにも当たり前のことを言えるのかと、ナナは当たり前の感心をする。
 早いとこ雰囲気だけでも、夕月になりきってほしいものである。



 「まずは強引にキスでもして、服脱がしたらどうだ?」
 彼女が何もして来ないので、薔はここでも先手を打った。
 あたまに手を回し、顔を近づけさせたのだ、強引にキスをさせようとしているがこうやってだんだん誘われていってくれればいいのだった。
 原作に忠実に、を心掛けているわけでもないのにわりと原作に忠実な内容となっております、ナナ版夕月が強引にキスをして彼の服を脱がしたのなら。

 「え…っ?……あ…っ、」
 一驚したナナは触れあいそうな距離にくちびるがきて、鼓動を高める。
 薔はそっと舌を伸ばして彼女のくちびるをなぞった。


 よくよく思い起こしてみると、一番の目的は“ナナが彼を啼かせること”だった。
 そのための手段として、こけしちゃんノートの再現が行われているわけなのだが、ふたりしてじっくり読み返したりも特にしておらずとにかくナナが積極的になる必要があった。

[ 474/536 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る