※※第343話:Make Love(&Impatience).208
「まあいい、やるぞ?」
「えぇえ!?すでにわたくし、立場がまったく夕月さんではないんですけど……」
彼が言ったら始まりなのか、雰囲気すらもこれっぽっちも夕月になれていないナナは戸惑う。
薔は本気で再現する気はないのか、この強引さがありつつも襲われてしまうのがこけしちゃんのノートなので、忠実に再現してくれているのか。
「ちょっ、ちょっと……台詞とか見せていただけますか?」
困惑によりいてもたってもいられなくなったナナは、ソファの上に置かれたノートへ手を伸ばした。
「そこらへんは適当でいいんだよ、」
完全に再現となるとただのBL?になってしまうためなのかはたまた、薔は彼女の手を掴んで制止させる。
「えーっ!?台詞は適当でいいんですか!?よくわからないんですけど!」
「一人称が“俺”のおまえと、俺が絡みあってもミステリーなだけだろ……」
すでにいつものような関係性が顕著になっておりますが、薔は一人称が“俺”のナナとはあまり絡みあいたくないようです。
ただの寸劇になりそうなので。
「でしたら、わたしは夕月さんなのに、“わたし”でいいんですか!?」
「つまりはそういうことだな、」
確認してみたナナはますますわけがわからなくなり、夕月と自分の区別がつかなくなりそうだった。
それにしても、本人はいっさい登場していないにも拘わらず、夕月の名前は呼ばれすぎである。
要するにナナは夕月っぽく、攻めキャラを演じればいいのだろう。
こんなことなら授業中にもっとノートを読み返して、隅々まで覚えておけばよかったと後悔しているナナの手を掴んだまま、薔は先手を打った。
その手を引っ張って、彼女が上になるようにソファへと倒れたのだ。
さりげなくノートは、テーブルの上へ移動させられる。
「こうやって見下ろされるのも……悪くねぇな?」
薔はくすくすと笑って、どこか妖しい視線でナナを見上げていた。
このひとノートの内容覚えてらっしゃる!とナナは昂ったが、彼は特に、じっくりと目を通してはいなかった。
到底受け入れられるものではないため、むしろ読んではおらず、台詞が一致したのは偶然の産物だった。
「あ、あの……」
読んだのかを確かめたいナナは、どこをどう取って見ても夕月ではないし攻めキャラも気取れていない。
「……ん……」
しどろもどろな彼女をよそに、瞳を閉じた薔は掴んでいた腕にそっとキスをした。
誘惑を仕掛けてくる彼は何を企んでいるのだろうか、ナナはすでに色々と限界だった。
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