※※第342話:Make Love(&Enslave).207







 「……新しいのは、嫌です……」
 ごくりと息を呑んだ後、ナナは言われた通りに言い直した。
 自分の本意を、彼の導きによって述べた。
 「ん、……それでいい、」
 大胆不敵に笑った薔は飲みかけのペットボトルを手に、戻ってくる。
 ナナはまた息を呑み、彼を待ちわびた。
 透き通って揺れる水は、どこかミステリアスで、媚薬のようにも思えてくる。


 「飲めよ……」
 ソファに戻った薔は蓋が閉まったままのペットボトルを、彼女に握らせた。
 背中で縛ってある手に、半ば強引に持たせた。
 「え…っ?……えっと…っ、」
 ナナはどぎまぎして、覚束なくペットボトルを握りしめた。
 この状態でどうやって蓋を外して、どうやってミネラルウォーターを口許まで運べばいいのか。

 「無理ですっ……飲めません……」
 悔しい声を振り絞った、両手は当然、自由に動かない。
 「無闇に欲しがったのはおまえだろ?……ったく、仕方ねぇな……」
 ふるえる手からペットボトルを奪い取ると、薔は無造作に蓋を外し水を口に含んだ。
 ナナは顎を掴まれ、口移しで冷たい水を与えられる。

 無理矢理に顎を持ち上げたりしないのは、嚥下がスムーズにいくようにするためだった。
 ごくんと水を飲み干すと、そっとくちびるは放される。

 冷たいのに、熱くて、おかしな気分になる。



 「もっと長い間、触れないでおくつもりだったのにな……」
 すごく近くで見つめて、薔は吹き掛けた。
 もっと長い間とはどのくらいの間を示すのか、わからなくて、ナナはぞっとした。
 そうやって心を鷲掴みにされ、虜にさせられる。

 「おまえの喉は渇くのが早ぇよ……」
 薔はゆっくりと、頬に手を滑らせた。
 喉、とは、単純に喉のことではなく、もっと深いところにある本能を指していた。
 それは、ナナにもよくわかった。

 「ごめっ……なさ…っ、」
 堪え性のなさを、ナナは涙目で謝る。
 「謝るなよ、俺のせいだろ?」
 また一口水を含むと、薔は彼女にくちづけた。
 するりと、でも舌に絡みつくように、水が流し込まれる。

 「うっ…んっ、ん…っ、」
 ナナが嚥下をしてからも、キスは続いていった。

 「…――――口開けて?」
 飲み干したことを知っている薔は吐息で促し、顎を少し持ち上げる。
 「あっ…は…っ、あ…っ、」
 言われた通りに口を開けて、ナナはうっとりと彼を見上げた。
 薔はあたまを撫でると、深くへと舌を滑り込ませた。

 濃密なリップ音が響き、くちびるは艶かしく重なった。

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