※※第342話:Make Love(&Enslave).207








 ナナは大好きなネクタイで後ろ手に両手を縛られ、ソファに座っていた。
 それだけで、それ以上もそれ以外も特に何もされないのが非常に堪え難い。


 「縛られると触れて欲しくなるだろ?」
 確かめた薔は隣で、難問をすらすら解いていた。
 「……はい……」
 小さな声で同意したナナは、進んで罠に嵌まりにいったのだと悟る。
 彼を呆れさせた後、彼の提案を嫌がるなんて、それを受け入れているのも同然だった。

 「まあ、俺がそういう躰に仕込んでやったからな……無理もねぇよ、」
 ナナには視線を向けずに、薔は返した。
 肯定してくれる優しさと、逆手に取る意地の悪さを以て、彼女を責める。


 「う、動いてもいいんですか?」
 立つことはできる状態で、何もしてもらえなくて落ち着かないナナは確認してからソファを立つか否か決めようとした。
 「動けねぇようにすんだったら両脚も縛ってる……」
 ふっと、薔は彼女と視線を合わせた。
 要するに、最初から動ける程度に縛ったのだと、彼は教えてくれた。


 「あ…っ、……え…っ?」
 一瞬にして視線で捕らえられたナナは、驚いた、腰に上手く力が入らないことに今更ながら気づく。
 「もしかして、その必要はなかったか?」
 視線を悪戯めいたものに変えて笑うと、薔はソファを立った。

 自分の鼓動の強さにも戸惑うナナは、両脚もじつは縛られているのではないかと錯覚する。
 そして、彼のスマートな後ろ姿に魅了された。



 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、薔は水分補給をした。
 美しい口許を見つめていたナナは、ミネラルウォーターが特別な飲み物に見えてくる。
 同じように、味わいたくなった。


 「あの……、わたしにもください……」
 なのでちょっと甘えた声で、懇願した。
 ちゃんと聞こえていた薔は彼女を一瞥すると、新しいのを冷蔵庫から取り出そうとした。
 わざとやっているようにしか思えなかった、彼が口をつけていないミネラルウォーターは特別なものではないのだ。

 「あ…っ、新しくなくていいですっ……!」
 ナナは必死になって、彼を引き留めた。
 どうしたらいいものか、パンツはもうぐしょぐしょに濡れている。
 引き留めたら素直に応じた薔は、やや厳しく彼女に言い聞かせた。

 「“新しいのは嫌です”だろ?ちゃんと言い直せよ……」

 譲歩ではなく懇願なのだと、彼はきちんと確かめたかったようだ。

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