※※第342話:Make Love(&Enslave).207
「どこの国の王子様なんですかね?ファンサイトとかあるんですかね?」
綾瀬兄の綾瀬兄による綾瀬兄のための質問攻めは、止まらない。
仮にファンサイトがあったとして、生徒のファンサイトに登録するような教師を醐留権は軽蔑した。
教師というものは生徒に対してそのようないかがわしい感情を抱いてはいけないのである、自分は生徒の彼女がいて隙あらばセックスしているけど。
やはり、自己と他者を区別して物事を考えるのは非常に大切なのだと痛感する(※醐留権理論)。
「……醐留権先生、さっきからずっと借りて来た猫のようではないですか?どうしたんですか?お腹でも痛いんですか?」
ここでようやく、綾瀬先生は先ほどから一言も喋らない先輩を気に掛けた。
気に掛けつつ、やはり質問攻めとなっている。
しかも綾瀬先生は、醐留権が果たしてほんとうに借りて来た猫のようなのか判断ができるほど、普段の醐留権先生を知っているわけではない。
今日初めて、濃密なコミュニケーションを取れている次第なのに。
あと醐留権先生はもちろん、腹痛に悩まされているわけではない。
隣の鬱陶しさにより、ちょっと頭は痛いけど。
黙ってガタンと席を立ったゾーラ先生は、廊下を敢えて遠回りして次の授業に向かうことにした。
いちおう隣で話しをさせてあげてはいるので、出待ちはもうしないと思われる、たぶん。
「あっ、醐留権先生、授業!?」
結局声を聞くこともなく置いてきぼりにされた綾瀬兄だが、ようやく隣で話ができて、先輩との距離がぐっと縮まったようで嬉しい気持ちになっていた。
さすがはドM。
「はあ……、一樹もあのくらい素直なら、お兄ちゃんは楽なんだけどな……」
どこが?としか言い様がないものの、綾瀬兄は己の弟のことを思い溜め息をついた。
お兄ちゃんに対する接し方を鑑みれば、要より一樹のほうが断然優しい気がする。
遠目で見ていた周りの先生方は、「綾瀬先生はドMなんだろうな」と確信した。
今日は月曜日で弟は休みのはずが、生憎連絡手段は全て絶ち切られている。
お兄ちゃんは、淋しいのだった。
「綾瀬先生!ちょっといいですか!?」
「何でしょうか?」
突然、ナナたちの担任こと吉川先生が、綾瀬兄に陽気な声を掛けた。
吉川先生は至って普通の現国教師で、テンションだけはいつも無駄に高い。
「醐留権先生、かなり怒っていたみたいですけど、何かあったんですよね!?」
「えっ!?怒ってました!?」
吉川はオブラートに包むことなく確かめ、怒っているのだと気づいていなかった綾瀬兄は仰天した。
鈍感なところは、似ている兄弟だった。
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