※※第339話:Make Love(&Acquisitive).206








 「醐留権先生、捕まえた〜!」
 綾瀬兄は悩んだ末、最終手段に出た。
 それは、生徒の目を気にすることもなく、醐留権先生を発見したら抱きついて捕まえるという作戦である。

 「なっ!?離したまえ!」
 廊下でいきなり抱きつかれた醐留権は邪険にしたかったのだが、相手は全身全霊で抱きついておりそう簡単に引き剥がせなかった。
 こんなところを彼女であるこけしちゃんに見られたら非常にまずい、ヤキモチでも妬いてくれればまだ救われるのだけど男同士となると確実にそうならないので厄介にもほどがあった。



 「この学校は幽霊が出るんですか!?僕は大丈夫なんでしょうか!?教えてくださいよ〜!」
 「何をわけのわからないことを言っているんですか!私にとっては綾瀬先生が幽霊みたいなものですよ!」
 「そういう話じゃなくて、本気で答えて!お願い!」
 「離しなさい!」
 学校の廊下で、いい歳した男性教師ふたりがくんずほぐれつしている。
 土曜日なのでもう放課後となっており、生徒の往来は激しくなかったが目立ってはいた。
 綾瀬先生は必死なので声が喧しい部分もある。

 数学準備室を見つけさせるため学校中を彷徨わせておくはずが、どうしてこうなった。




 「とにかく離れるんだ!そうでなければまともに話もできないだろう!?」
 「あっ、やだ、ちょっと、転ぶ!」
 ひたすら無理矢理にでも引き剥がそうと醐留権が綾瀬兄の背中を押すと、危うく階段を転げ落ちそうになった。
 綾瀬お兄ちゃんがいささかオネエ化しているような気もするが、気にしないでおこう。


 「危なっ……」
 ふっと、転げ落ちて怪我でもしたら自分の名誉に関わるので、醐留権が綾瀬兄を抱き寄せて何とか支えた。
 とっさの判断であり、何の青春でもないし何のBLでもないのだけど己の都合に合わせて見ればそういうシーンに見えなくもなかった。




 そしてそれを偶然目撃してしまったのは、こけしちゃんではなく、羚亜と愛羅カップルだった。
 羚亜は唖然としている中、愛羅は何か面白いものでも発見したかのごとく目を爛々と輝かせていた。

 「要さん……何やってるの?てか、何かやられてたの?」
 「羚亜くん!無粋なことは聞いちゃダメ!あたし途中から動画に撮ってたから、真実は全てここに収められている!」
 「えぇぇぇぇえええ!?愛羅さん、何やってんの!?」
 未だに唖然とする羚亜をよそに、喜び勇んだ愛羅はさっそく動画をLINEでこけしちゃんに送信した。
 なぜこうなってしまったのか、本気で理解に苦しむゾーラ先生は眼鏡がずり落ちそうになり、綾瀬先生を軽く廊下に向かって突き飛ばした。
 綾瀬先生は突き飛ばされたりするとキュンキュンしてしまう体質なため、「あうっ」とか変な声を上げている。



 「相手が薔さまじゃないけど、悠香ちゃん喜びそう!」
 「さすがにまずいってば、愛羅さん!」
 「だから面白いんじゃん、羚亜くんたら真面目なんだから。そんなに真面目なら数学の宿題ちゃんとやれば良かったのに。」
 「それは……ごめんなさい……」
 ルンルンの愛羅と最終的に項垂れた羚亜は手を繋いで階段を下りていった。
 この先どんな事態が待ち受けているのか、考えただけでぞわっとした醐留権先生は眼鏡ごと青ざめた。

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