※※第339話:Make Love(&Acquisitive).206








 土曜日でそれなりに混んでいたが仕事が一段落した真依は、どこか切迫した様子の綾瀬に物陰から手招きをされてぞくっとした。
 ホラー映画に出てきそうなワンシーンだったが、恐る恐る近づいてあげることにする。


 「ど、どうしたの……?」
 と、真依が少し怯えながら声を掛けると、綾瀬はとんでもないことを声を潜めて尋ねてきた。

 「高良先輩って、屡薇とはよくエッチするんですか?」

 雰囲気はホラーなのに、聞いている内容はR指定となっている。
 でも残念なことに、どこをどう取ってみてもエログロではない。


 「なな何でそんなことが気になるの!?」
 物陰に隠れている意味がないくらい、真依はおったまげてしまった。
 なぜそんなにもプライベートな内容を聞きたがるのか、皆目見当がつかない。

 「もし、屡薇がテクニシャンということでしたら……色々と教えていただきたいことがございまして……」
 すると綾瀬は急にもじもじしだし、屡薇をエロの師匠にしたいのだという趣旨を伝えてきた。
 気が急いているのか、もう萌と付き合うことになってエッチをする未来まで思い描いているようだ。

 「え〜、それだったら屡薇くんは頼りないかな?上手くはあるけど、すっごく頼りないからそういうの向いてないと思う。止めといたほうがいいよ?」
 「彼氏なのに酷い言い様ですね……」
 真依はやや真剣になってきたのか、きちんと相談に乗ってあげてはいた。
 ただ屡薇が聞いていたら、率先して地獄にでも堕ちそうな内容だった。
 綾瀬は彼女としてのこの潔さには敬意を払わずにいられない。




 「この際だから妄想抜きにしてアドバイスするけど、一番いいのはやっぱり、薔さんだと思うよ?」
 「それは僕も思ったんですが、高嶺の花すぎて……」
 「大丈夫!生きて帰って来られるかはわからないけど薔さんめちゃくちゃ優しいし、誰よりも頼りになるから!」
 受けの妄想はひとまず置き、真依は本格的なアドバイスをしてあげた。
 綾瀬はすでに畏まりつつ、照れていた。
 綾瀬兄弟は仲違いこそしていれども、好みはとても似ているようで二人揃って薔にメロメロになっている。

 なんか萌えそうだし面白そうだしで、真依はたきつけただけだった。
 屡薇はこの場にいなくて本当に幸いだった。




 「薔さんはね、ほんとすごいテクだよ?天才だよ?……ていうか鬼才?」
 「高良先輩、まるで見てきたかのようにおっしゃいますね?」
 「見たことはないけど、いつも妄想してるから!」
 「はあ……」
 妄想で太鼓判を押し、真依は綾瀬を勇気づけた。
 理解こそできなかったが、綾瀬は勇気を振り絞り薔にあれこれ指導してもらおうと決心した。

 薔にとってはなんとも、迷惑な話である。

[ 426/536 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る