※※第337話:Make Love(&Sex aid).46








 得意なシャンプーを終えた綾瀬へと、真依は恐る恐る声を掛けた。
 カットにはあの(イケメンの)店長さんが入ってくれて、ふたりはちょうどタイミングが合い仕事が一段落したところだった。


 「綾瀬くん、今日はやけに笑顔だね……?何かいいことでも……あったの?」
 と、恐る恐る声を掛けている理由は、綾瀬の笑顔が真っ暗闇の中からいきなり登場してもおかしくないくらい、不気味だからだった。
 接客には必須アイテムのはずの笑顔が、下手をすれば客の腰を抜かしかねないホラースマイルとなっている。

 「あっ、高良先輩ではないですか!もしや僕の話を聞いてくれるんですか?」
 「うん、聞くために声掛けてるから……聞くよ?」
 先輩のほうを向いた綾瀬の満面の笑みはやはりどこかホラーテイストで、真依は思わず尻込みした。
 屡薇が見ていたら確実に激怒する場面ではある。

 「僕、好きな子ができたんですけど……あっ、女の子ですよ?ゲイではないので。その、好きな子が無神経と言いますか残酷と言いますか、冷徹とでも言いますか……とにかく、悪女なんです……」
 フフフフフと笑いながら、綾瀬はなぜこんなにも不気味に笑っているのかの理由を明かした。
 萌についての表現はかなり歪曲されており、真依のイメージでは、二時間ドラマとかに出てくるような男をたぶらかすグラマラスで話術にだけは長けているサイコパス寄りの美女になった。

 「もしかして綾瀬くん、詐欺に遭ってるんじゃないの?」
 なのでただの恋バナが飛躍して、何らかの詐欺の心配をするにまで及んだ。
 「やだなあ、違いますよ。高良先輩ったら大袈裟なんだから……」
 ずっと不気味に笑い続けている綾瀬はそもそも己の表現の仕方が話を大袈裟にしているとは気づいていない様子で、自身も無神経ではあった。
 一樹んと萌ぴょんは互いが鈍感な上にホラーチックなので、話がややこしい方向へどうしても向かってしまう。




 「高良先輩の彼氏みたいにイケメンだったら、僕も多少は振り向いてもらえたのかもしれませんけどね……いっそ生き霊になって僕もストーカーしようかな……」
 「落ち着いて、綾瀬くん!綾瀬くんは生き霊にならなくても、ストーカーできるタイプじゃん!あと屡薇くんは確かにすごいイケメンだけど、綾瀬くんだってイケメンだよ?屡薇くんとは違うタイプのイケメン!」
 綾瀬が追い詰められている様子なのを見かねて、真依はついによくわからない言葉を送り励ました。
 彼氏がイケメンであることは、否定しない。
 あとこれは特に、ストーカーを推奨しているわけではない。

 綾瀬がこんなふうになっている頃、萌は学校でひたすら怯えていた。

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