※※第326話:Make Love(&Especial).197







 「一樹んのお兄さんは、夏休み明けからあたしたちの学校にくるんだよね?」
 恥じらいつつ鼻をかんだ萌は、綾瀬を直視してからただちに目を逸らした。
 「え?うん……」
 改めて確かめられた綾瀬も、鼻をかむ。

 ふたりにとってゾンビはただの、彩りに過ぎなかった。


 「わかった……じゃああたしが一樹んのお兄さんのお弁当に、毎日蛭を入れといてあげる……昔テレビで見たもん、復讐には一番いい方法だよ……」
 ティッシュをもこもこケースごと抱きしめた萌は、ゾンビに勝る恐ろしさで口にした。
 「蛭なんてここらへんで入手できるの!?」
 綾瀬の驚きのベクトルは、間違っている気がしてならない。

 「難しいかな?縫い針のほうがいい?」
 「縫い針のほうが簡単に手に入るとは思うけど……」
 蛭を妥協してもアイテムは縫い針で、この男女は建設的な話をできないようだ。

 「毎日毎日……じわじわと復讐して、お兄さんを苦しめてあげないと……これは罪人に等しいお兄さんのためでもあるよ……」
 「確かに、萌ぴょんの言う通りだね……兄さんはちょっと、痛い目に遭わなきゃ……」
 ふたり揃ってホラーな雰囲気になると、映画はエンドロールが流れ始めた。
 ホラー映画をわざわざ借りてこなくとも、じゅうぶんにホラーだった。

 「でも蛭も縫い針も駄目!」
 「どうして!?蛭はまだしも縫い針なら、手芸用品店に売ってるよ!?」
 手芸用品店は手芸のために縫い針を売っているのであってじつに健全なお店なのだけど、引き留めようとした綾瀬に萌は反論した。
 綾瀬はやっぱり兄や幼馴染みの身を案じて、引き留めたのかと思いきや、そうではなかった。

 「これは僕の問題だから、萌ぴょんに罪を背負わせるわけにはいかない……」
 純粋に、萌に罪深いことをしてほしくないだけだった。
 愚痴らせてもらっただけのはずが、ここまで腹を立ててもらえて、もう綾瀬はこの上ない満足と感動をしていた。




 「一樹んのばかっ!あたしに何とかしてほしくて、相談したんじゃないの!?あたしは一樹んの力になりたいのに、一人だけで立ち向かうなんてずるいよ!」
 「ええ…?僕は予想外の共感をもらえただけでもう思い残すことは……」
 「そんなのダメ!」
 けれど頑として、萌は協力することを譲らなかった。
 これが真の友情かと、綾瀬は圧倒されている。

 「待っててね?一樹ん、今調べるから……」
 「何を調べるの?萌ぴょん……」
 さっそくスマホ(←ロボットのほう)を取り出した萌は、Googleで検索を始めた。

 「日本に大量の蛭が生息している地域!」

 とやらを。
 仮にそれ、弁当に忍ばせても、確実に気づかれて大騒ぎになるよ。



 「それより萌ぴょんのスマホケース可愛い!手作り!?」
 「そうだよ?全部百均で買ったのだけど、可愛いよねっ!」
 「百均って便利だよね、わかるっ!」
 最終的に検索はおざなりにして、スマホケースの可愛さにふたりはきゃっきゃしだした。
 いい加減、部屋の明かりをつけよう。

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