※※第321話:Make Love(&Seduse).195








 「……すみませんでした、薔さまと同じ学校の生徒さんでしたとは……」
 「いえっ、こちらこそ、気を遣っていただいたのに邪険にしてしまい、すみませんでした……」
 ソフトクリームがぶちまけられたことで冷静になれたのか、項垂れる綾瀬はベンチに座り、萌はせっせとソフトクリームをティッシュとハンカチを使って拭き取っていた。
 しかしながらゾンビソフトクリームのえげつなさは手強く、なかなか落ちる気配はない。


 「あの……もう大丈夫です、悪いのは僕ですし……そこで売ってるゾンビTシャツ買って着ますので……」
 「え!?ゾンビTシャツならあたしもう三枚買ってありますので、一枚あげます!悪いのはあたしですので、差し上げます!」
 「もらうのは悪いので、お代はきっちり払いますよ!」
 ゾンビグッズを多く取り扱っているテーマパークのようだが、萌はなぜ三枚も購入したのか。
 おそらく、ファンシーだったのだろう。



 「ところでこのキーホルダー、手作りですか?可愛すぎるんですけど……」
 「わかってくれるの!?嬉しい!それ、バッグも手作り!」
 「すごい!作り方教えてほしい!」
 やがてふたりは意気投合し、キャッキャとはしゃぎだした。
 端から見ればいきなり仲良しな、カップルである。

 綾瀬はここでこそ、占いを信じて良かったと思うべきなのだが、テンションが高まりすぎて単純に趣味の合う女の子の友達ができたくらいにしか思っていなかった。
 萌のほうも相手が可愛いこともあり、女子力の高い男の子の友達ができたくらいにしか思っていない。


 「こういうのを地道に作り上げてゆく作業が好きなんですよ……例え指に縫い針が突き刺さろうとも……」
 「ああ……わかります、ぬいぐるみに縫い針刺すのとかめちゃくちゃ楽しいですよね……」
 ウフフと笑う綾瀬とフフフと笑う萌は、縫い針への敬意を互いに感じている。
 このふたりが一番に共通して持ち合わせている性格は、たまにホラーチックになるということだった。
 厳かな雰囲気のなか萌から綾瀬へと手渡されたゾンビTシャツもなんともえげつない配色をしており、ゾンビソフトクリームがしっかりと拭き取れていないTシャツのほうがまだえげつなさではましなレベルだった。



 「あ、そう言えば、僕と違って要領がいい僕の兄さん、夏休み明けからそちらの高校で臨時で働かせていただくみたいなんです……よろしくお願いします……」
 「へええ、そうなんですかあ、薔さまに憧れてるみたいですけど隠し撮りとか貴重すぎるもの依頼したらマジで呪うんでこちらこそよろしくお願いします……」
 テーマパークで畏まって深々と頭を下げあう男女というのも、ちょっと珍しいかもしれない。
 産休としてはまだまだ早いので、綾瀬くんのお兄さんは葛篭先生の代わりではないだろう。





 (何で萌ちゃん……男にナンパされてんの……)
 ジュースを買って戻ってきたあかりは、相手がイケメンなこともありますます男が嫌いになった。

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