※※第317話:Make Love(&Sex aid).41







 「そっ……そのくらい可愛らしいという、……話をしただけです……」
 鼓動が跳ねたナナは、汗ばむ。
 彼の視線は甘く棘のようで、一度捕らわれたら逃れられない。

 「ふーん……」
 妖しい笑みを浮かべた薔は髪にゆっくりとゆびを滑らせた。
 ナナは写真でしか見たことがないと思っている、彼は実際に会ったことを知っている。

 十年後に会ったときには、天使は悪魔になっていた。
 両方を兼ね備えた、唯一無二の存在になった。


 ゆびの動きが気持ちよくて、うっとりしたナナは優しくくちづけられた。
 やわらかくくちびるが触れあうキスで、舌を絡めたりはしない。
 いい匂いがして、彼に抱きつきたくなった。

 欲しいままに、せがんでしまいたくなる。




 「悪魔になってて悪かったな?」
 心なしか皮肉じみた言い方で、くちびるを放した瞬間薔は囁いた。
 「ん…っ、……え…っ?」
 キスの気持ちよさに頭がぼーっとしているナナは、彼の言葉の意味がわからない。
 きゅっと服を掴み、腰を抱かれている。

 「…――――違う、俺が言いてぇのは……そんなんじゃなくて……」
 ぼんやりと見つめ返された薔は困ったように息をすると、あの雨の中と同じくらい強く彼女を抱きしめた。


 「愛してるよ、ナナ……」
 今度はもう、彼は震えてはいなかった。
 確かな愛を吹き掛けたくちびるだけが、彼女の見えないところでひっそりと、僅かに、苦しげに震えただけだった。

 「愛しすぎてて死にそうだ……」







 息をするのが苦しくなったナナは、言葉が出てこなかった。
 死んじゃダメですと言いたくてもほんとうに息の根の在処が刹那わからなくなり、彼にしがみつくのが精一杯だった。

 キスをされて、こんなふうに抱きしめられているから、呼吸はすでに奪われてしまったのだろう。



 「優しすぎるのが不安なら、意地悪してやる……」
 背中を撫でた薔は耳にくちびるを滑らせた。
 「あ…っ、」
 彼の意のままにされゆく声は甘ったるくなる。
 ぞくぞくしたナナは腰に上手く力が入らない。

 「どうして欲しい?」
 薔は確かめた。
 どうして欲しいのかを聞き入れてくれる彼は、優しい。
 その優しさを毒に変えて、意地悪に彼女を可愛がる。

 毒に変えられても、優しさは優しさだった。




 「ん…っあっ、」
 ラブホでエッチなことをしてもらえるのではないかと期待していたナナは、自分がとっくに淫乱になっていることを思い知った。
 疼く躰は物欲しそうに愛液で下拵えをしている。

 「お…っ、玩具で…っ、エッチなことしてください…っ……」

 素直に冀った、早く乱してほしくでおかしくなりそうだった。

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